83限目 頑張らない訳にも行かない!

『この後14時30分から、男女学年別、クラス対抗リレーが始まります。生徒の皆さんはグラウンドにお集まりいただき──』

「お、遂にか」

 全試合の勝敗も決まり、リレーの時間が来た。リレーの順番は1年女子、次に1年男子、2年女子、2年男子、3年女子、3年男子というふうに進むため、俺たちはまだ出番に時間がある……とはいえ、さすがに応援しない訳にも行かないのでグラウンドに向かった。というか、もうリレーの後はそのまま閉会式になるので行かなきゃならんのだ。ちなみに1A女子のリレーメンバーは、神田さん、藤堂さん、桃野さん、そして平塚さんだ。特段運動神経のいいメンバーと言う訳では無い、まぁ……よく目立って、協力的で、今回の全学年全クラス対抗の競技には参加してないメンバー、と言うべきか。もちろんメンヘラたちは適当にどこかの補欠に詰め込まれていた。バドミントンは出ているのを見たが、バスケは出ていた記憶がない。一応出なければならないという決まりはあるのだが、先生たちとしても誰が出て誰が出てないなんて一々把握しきれないので、割と適当だ。まぁ、勝ちたい女子はそっちの方が助かるかもしれない。出した上でワンオペした甲斐田さんの凄さがよくわかる。

 さて、リレーとなると気になるのは他の競技では全くやる気のなかったFの動向だが……やっぱりだ、見るからに気合いが入ったメンバーを集めている。

『位置について──よーい……』

 パンッとスタートピストルが鳴る。Aの第1走者は神田さん。さすが早いが、C、そしてFが前にいる。Fが特に速い。第1で差を作るつもりだろう。

「かんちゃん頑張れぇぇえええ!!」

「いけ笹野!!」

「いけいけC組! いけいけC組!!」

 1年の席からものすごい応援が聞こえる。勿論俺だって声を出して応援している。

 バトンは徐々に第2走者に渡っていき、Aは3番目のまま次の桃野さんに渡った。桃野さんとC組が競り合っている後ろから、D組の第2走者が迫ってきて、Fを先頭にした後、A、C、Dがほぼ同時に第3へバトンタッチする。

「舞原頑張れ!! 」

「いったれ吉川!!」

 第3は平塚さん。あまり体育会系のイメージはないが、足は早かった。F組とは大きな差がついているが、CとDと固まっていたところから抜けた。だがここで後ろからH組が追い上げてくる。やはりFを先頭に、A、C、Hの順でバトンが渡った。そして。

「藤堂ちゃんいっけーーー!!」

 アンカー、陸上部短距離の藤堂さんにバトンが渡る。藤堂さんは足が早いのも勿論だが、顔も可愛い。名倉さんに目の敵にされるかな、と思ったがそんなことはなかった。理由はこう……藤堂さんは健康的に細くて、体なら負けないと名倉さんが自負しているからだろう。

 Fもアンカーに選ばれた人は早く、結局藤堂さんが追いつくことは出来ずにAは2位で終わった。だが運動部がそう多くないクラスでこの結果なら上々も上々だろう。

「おつかれーい」

「ゴメーン1位取れなかった」

「いいのいいの! 楽しむのが1番!」

「次男子、頑張ってね!」

「ほいほい、じゃ、行きますか!」

 丁度アナウンスも来たところで、俺たちはそれぞれのスタートラインに歩き出した。ここに来てようやく緊張する。負けたからどう、という訳でもないただの体育祭。それでもリレー、しかもアンカーは緊張するものだ。……しかもFのアンカー遠藤じゃん……。

 位置について、というアナウンスが聞こえた。スタートの時間のようだ。パンッという音が響き、沢山の応援が聞こえ出す。とりあえず落ち着こうと大きく息を吐き出した。

 第一走、先ず飛び出したのは想定通りF。気合を入れすぎている。そんなに他の組に負けたくないのかと、いっそ尊敬の念まで湧いてくる。しかも、アンカーをきっちり自分にしているあたり目立ちたいのだろう。遠藤が運動できるのかは知らないが、まぁ凡そ3走までで大きく差をつけたいのだろうな、というのはわかる。

 バトンは次に渡って第二走。1位はF、次にC、Gと続いて、Aは4番手だ。

「走れ馬渕ー!!」

「吉本行けえええええ!!」

「渡部頑張れー!!」

 そんな応援の中、バトンはやはり一足以上に早くF組が第三走に渡──ろうとした、その時だった。バトンの受け渡しが上手くいかなかったのか、第二走者と第三走者が衝突、倒れ込んだ。観客席から、あっ……という驚きの声が上がる。その間にC、G、Aの順でバトンが渡った。Aは佐々木の番だ。次にいよいよ俺が来る。

「いけーA組!!」

「行けるぞC!!」

「相澤走れー!!」

 5位くらいだったB組にバトンが渡った辺りで、ようやくF組のバトンが渡ったようだ。その間に、Cを1位に、GとAのバトンがほぼ同時にアンカーに渡る。……ここまで来たら、頑張らない訳にも行かない!

「頼むぞ結城!」

「あぁ!」

 バトンを受け取り走り出す。恐らくリレーに出てるやつは全員現役運動部。現役じゃないのなんて俺くらいだろう。Gに何とか食らいついて行くだけで、前を走るCには追いつけそうにない。……のだが。

「Aのアンカーイケメンじゃない!?」

「結城くんやっぱイケメンじゃん!!」

「あの1年の子かわいい!!」

「あの子いつも女子に囲まれてる子!?」

 ……よっちーが言ってたとかいう、「どのクラスがいちばん黄色い声援を浴びれるかの勝負」というのはもしかして事実だったのだろうか。すごく恥ずかしいんだが。……などと現実逃避をしてしまったのは、息が苦しくてGについてくのも出来なくなってきたからだ。しかしまぁ、リレーは合計400の1人100m、考えてる間にゴールに辿り着き、A組は3位という結果に終わった。リレーメンバーが集まってくる。

「ハァ、ハァッ……ごめん、2位行けなかった」

「いいっていいって! お疲れ!」

「アンカーに入った瞬間Aの応援凄くなったしな!」

 パシパシと軽く背中を叩かれる。ふとゴールを見ると、Fは何と最下位だったらしい。第二走と第三走のバトンの受渡しトラブルで1位からだいぶ落ちたとはいえ……なるほど、遠藤は運動ができる訳じゃないんだな。見るからにイライラしている。あまり見てるとまた目をつけられるかもしれないため、俺は目を逸らした。

「クラスんとこ戻ろうぜ」

「3位なら上々だろ、俺たち運動できるとかじゃなくてただいつもつるんでるだけのチームなんだし!」

 佐々木がケラケラと笑う。それもそうだと、俺も笑った。


 その後、2年女子、2年男子、3年女子、3年男子とリレーは続く。3年男子のアンカーは本当に仮装大会で、電気ネズミの着ぐるみパジャマだったり、引っこ抜かれてあなただけについて行く生物のような全身タイツだったり、ダンボール製の無駄に凝った甲冑だったり、ひとつなぎの大秘宝を求めてそうな海賊のガチコスプレだったり……まぁ様々な服装だった。ちなみにやはり走りづらいらしく、アンカーに渡った瞬間それまで早かったレースが途端に遅くなった。海賊だけは走りやすそうで1位だったが、薄着すぎたせいか待っている間震えていた。ちなみに1番遅かったのは甲冑で、走ってる最中に「走りづら!」と言っていた。なぜ甲冑にしたのかは分からない。当然あちこちから大笑いする声が溢れていた。

 そんなこんなで賑やかだった体育祭も閉会式を迎えた。高校に入ってから、初めて心の底から楽しめたイベント。閉会式後の帰りの会で、橋本くんが「放課後空いてる面子は今からLINEで送る店に集合!」と言い出して、1Aメンバーは打ち上げまで、きっちり楽しみに行くのだった。

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