80限目 なんか腹立つ

 テニスコートでは、よっちーが謎にくねくねした動きでラケットを振っていた。

「上級生なんかに負けないわよアターックよーん!」

「ぶっはははは!!」

 この時間に応援する対象が居ない人が結構集まっているのか、周囲には結構人がいて大爆笑しながら様子を見ている。そしてふざけてるのに謎に強いのがなんか腹立つ。ダブルスを組んでいるのは光谷くんだが、隣にいる分声が大きく聞こえて破壊力が高いのか、なんかもう試合どころではなさそうだ。

「おっ前ほんとっ……誰か代わってくれよまじで!」

「俺お前らが勝った場合の控えだからそこんとこよろしく」

「こいつの横にいたら俺は笑いすぎて戦力外もいいところだが!?」

 光谷くんはそう言いつつも頑張ってはいる。でも隣の動きが強烈過ぎる。

 そのまま試合は過ぎていき、よっちーはくねくねした動きを終始やめることは無かったが、別に球技大会の時のF組の遠藤のようなことはしていない分、教師としてもよっちーの行動を注意ができる状態ではないらしい。それどころか、見に来ている教師たちもにやにやとしていた。多分対戦してる3年生はこんな1年生相手にしたくなかっただろう。


 やがて試合は進み、ふざけているのにやたら強いお陰なのか、それとも終始オネエ口調だったせいで相手の調子が崩れたのか、男子テニスダブルスは1Bの勝利に終わった。

「すっげーなお前! あんなふざけてよく勝てたよ!」

「むしろそれが狙いか?」

「いんや? 単純にどうせなら楽しくやろうと思って」

「それで3年に勝つって何!?」

 まぁ高校生ともなれば、試合の勝敗は運動神経の善し悪しに由来して学年の差なんてそんなに影響しないもんだが、それでもすごいと言わずにはいられない。実際強かったし、俺は別にテニスの試合には出ないけどよっちーとは戦いたくない。

 とりあえず2人の健闘を称えていると、ピロンとスマホが鳴った。その場にいる1A全員のスマホが鳴ったとなると、恐らくクラスLINEだろう。そんなことを考えながらスマホを見ると予想的中、10分後に1A対2Cのバレーの試合が始まるようだ。

「みんな、10分後バレーの試合だ1A。2C戦」

「まじか。つか串田も渡辺も嵐山もそれ先発じゃね?」

「うわマジだ! 急ぐぞ間に合わないと不戦敗になる!」

 渡辺くんがそう言いながら走り出したのを合図に、試合組は体育館へと急いだ。俺たちは試合に間に合えばいいや程度の感覚で、談笑しながら体育館へ向かったのだった。




 男子バレー部は、クラスには二人しかいない。その上そのうちの一人である馬渕はリレー選手であるため、1Aは初戦から苦戦を強いられていた。まぁ負けたからどう、ということも無い。もちろん成績に反映されることもないし、負けたらその分俺たちは自由時間が増えるのだ。中には、負けてくれた方がいいと思う生徒ももちろんいるだろう。当然、応援は全力でするけどそれはそれだ。そして、ここで初めて知ったのだが……。

「きゃー!! 串田くーーーん!!」

 3年女子からの声援がすごい。そしてそれは、1Aでなく串田くんに向けられている。

 というのも、串田くんは元々年上女子からの人気が高いのだ。その秘訣……というか理由は、顔だ。イケメンなんじゃない。背が低めで可愛いのだ。男子校にいれば、間違いなく男子校の姫の座を獲得していただろう。メンヘラに囲まれるせいで顔よりもそっちのインパクトがでかく、まぁそのくらいの顔なら学年に5人はいるだろうな程度の顔の俺とは訳が違う。そんな串田を応援すべく、その時間暇な年上女子が集まっているのだ。ちなみに串田はそんな声援をスルーしている。可愛い顔して塩対応、というのもギャップ萌えみたいな範囲らしい。そしてすごいのが、なんと敵チームの女子も串田こっちを応援している。

「おい女子ィ!! テメーら自分のクラスの応援しろや!!」

「はぁ!? ブサイクのあんたらなんて負けていいけど!?」

「ぶさっ……!? 相川それやめて泣く!!」

「串田くん頑張れー!!」

 そんな会話をしながらも割と普通に試合してる2C、強い……。1Aも頑張って応援はしてるが、温度差で風邪ひきそう。

「串田応援勢凄いな……」

「嫉妬すんなよ結城」

「誰がするか……」

「これだからイケメンは……」

 試合の様子はと言うと、正直苦戦だ。点数差はあまり開いてはいないけど、常にこちらが追う側になっている。まぁ原因が分からんでもない。なにせ、俺はバレー経験者ではないがバレーとバスケに必要なものは知っている。ジャンプ力と身長だ。俺はバスケ部だったので片足ジャンプの方が得意で、多分両足ジャンプのバレーじゃろくに飛べないけど、俺以外の高身長……馬渕、佐々木、たむたむは別だ。馬渕は元々バレー部だし、佐々木とたむたむはサッカー部、足を使う競技なのだからジャンプの力もあるだろう。だが残念なことに、水着が何故かお揃いになってた俺たちは全員リレーに取られてしまったので、バレーの試合に使える人材があまり多くないのだ。それに対して、2Cはみんな高身長で、恐らく元からバレー部もいるのか強い。まぁ、ここまで条件が悪いのに点差がそう開いてもいないのはすごく頑張っているとは思う。これはこっちが頑張っているよりも、2Cの女子が串田くんを応援しているせいで試合メンバーの士気が下がっているせいかもしれない。

 とはいえ点差がなくなり追いつけ追い越せの状態になることはなく、試合が終わり、ブザーがなる。女子の応援も虚しく、1Aの負けだ。こっちももちろん、2Cからも落胆の声。ここまで来ると相手チームの男子がちょっと可哀想になってくるけど、まぁいいや。

「わりぃ負けた」

「ナイスファイトナイスファイト!」

「まぁまぁ、まだ俺ら女子バスとバドミントンとテニスあるし、明日はリレーもあるし!」

「馬渕確かスケジュールの写真撮ってたよな? 次なんか試合ある?」

「……バドミントンがある。1F戦」

「げっ、Fかぁ……」

 やっぱりF組は苦手視されている。もちろんF組が全部悪いのではないが、やっぱ遠藤のせいだ。俺たちだけでなく、ほとんどの同学年が苦手視しているだろう。しかも俺に至っては夏休み前にそいつのせいでメンヘラ全員と一人一人水着購入デートする羽目になってるので、出来れば関わりたくない。

 そしてバドミントンの応援に行きたくない理由がもうひとつ……伊藤さんと名倉さんが、バドミントンの控えだ。レギュラーメンバーは確か墨田さんと甲斐田さん。まぁそんなこと言い出せばもちろんバレーも応援に行きたくないんだが……。リレーについてのは、そんなものに出場するメンヘラでは無いし、文化祭であれだけ非協力的だったメンヘラたちをリレーに組み込みたいクラスメイトではなかった。

「まぁとりあえず小体育館行こうぜ。早くしないと甲斐田に怒られる」

「そうだな……」

 甲斐田さんは平塚さんと仲がいい女子で強気なタイプだ。元からバドミントン部だからか今回の体育祭はかなり張り切っている様子で、先週の出場競技を決めるLHRの時も、『絶対応援に来いよ!! 来なかったら将来掲示板にお前らの顔晒すからな!!』という脅しをかけていた。怖すぎる。

 次の試合準備が始まることもあって、俺たちはぞろぞろと移動を始めたのだった。

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