39限目 マジで?
結局ろくに勉強は進まなかった……教科書みたって理解できないんじゃ問題が解けるわけがない。マジでやばいなテスト……。
そんなわけで昼休み。結局陽キャと仲良くなった俺は、文化祭が終わってからも陽キャとご飯を食べている。文化祭終わりの火曜日に自然と陽キャの方に向かった時は樋口くんにすごい目をされたが、おそらく気にしたら負けだ。
「つかそうだ聞いてくれよ結城!」
「え、何。どうしたの」
「馬渕のやつひでぇんだぜ! 昨日LINEで今度のテスト範囲の数学教えてって言ったら断るんだぜこいつ! 頭いいくせに!」
「馬渕頭いいのか」
「良くねぇよ別に……普通だ」
「嘘つけ小テストいつも満点じゃん!」
「え? マジ?」
それは羨ましい……この高校は偏差値高くないし就職支援も多いけど、小テストも結構ある。俺は満点なんてとったことがない。
「つか頭いいならたむたむもいるだろ。結城も見るからに頭良さそうだし」
「えっ」
「そうそれで俺結城に教えてもらいたいなって」
「え?」
そ、そんな……!俺だって人に教えるどころか教えて欲しいくらいなのに……!期待を込めた目で見られても困る……!……仕方ない、正直に言おう。
「……俺はむしろ教えて欲しいくらいなんだけど……」
「はぁ? なんでよ」
「いや、その……普段の真面目さとか顔とかで判断されてると思うと言いづらいんだけど……俺、あの……」
言いたくは無いが仕方がない。
「……二次方程式とかのところで……数学躓いてるんだよね……」
凍ったように時が止まる。やがてたむたむの口から、マジで?と出てきた。
「嘘だろお前!? よく今まで授業受けてたな!?」
「ううううるさいな! なんとか方程式叩き込んで騙し騙しで頑張ってたんだよ!」
「お前図形とか三平方の定理とかで止まってそうだな」
「ご明察の通りだよ」
「そりゃぁ教えて欲しい側にもなるわなぁ!」
たむたむが大笑いしながら言う。くそぉ悔しいけど事実だ……。
「そういうわけだから俺に勉強は期待しないで」
「期待は消えたけど心配が生まれたな……」
やれやれと佐々木が溜息を吐き出す。このメンバーはヤバい順に、俺、佐々木、たむたむ、馬渕と言ったところか。
「お願いだよ馬渕勉強教えてよ……」
「……まぁ赤点は困るだろうしな。いいよ、教えてやる。けど……どこで勉強する?」
「結城に教えるんだから結城んちだろ」
「俺の家は絶対だめ。家庭環境は前話しただろ」
「じゃぁ俺から提案! 俺ん家来ない?」
あっけらかんとそう言ってのけるのはたむたむ。俺たち3人はキョトンとその顔を見た。
「いやお前ん家って……いいの?」
「別に構わねーよ?」
たむたむには、2つ上の兄がいるらしい。つまり今年受験生だ。夏といえばもうそろそろピリついてもいい頃に……馬渕はそう騒ぐ質でもないし頭はいいけど、俺と佐々木というこ成績アホが2人が邪魔していいのだろうか。
「兄貴は進学するつもりだけどさ、別に必死こいて勉強しなきゃってところじゃねぇらしいし」
たむたむが言うので、俺たちは互いに顔を合わせて、やがて頷いた。
「じゃぁそれでいいかな」
「おっけ、今日早速来るなら伝えとくけど」
「俺は出来れば早く教わりたい」
「馬渕は今日空いてる?」
「テスト前に勉強以外に予定詰めてるやつはやばいだろ」
こうして俺たちは、馬渕に勉強を教わるべく田向家にお邪魔することになったのだった。
電車内、俺はゲンナリとした顔をしていた。というのも、たむたむの家は5駅ほど電車で行ったところにあるのだが、思い返してみればその方向はそう、恩塚さんと同じ家の方向だと忘れていた。比較的強気な恩塚さんに駅で捕まり、恩塚さんが降りるまでべっとりされることになったのだ。
肩に頭をもたれさせて……どころか、ググググと体を押付けられている。そして俺が座っているのは壁際。体が痛い。
「っ……お、おん、恩塚さんちょっと……圧死しそうだからやめて……」
「大袈裟ね」
大袈裟なのは理解しているがそれはそれ、大衆の前で付き合ってもいない男の体を壁に押し付けないで欲しい。俺が壁側だからまだいいが、恐ろしいのはメンヘラは俺の隣にいるのが人でも容赦なくやってくるという事だ。二次被害を免れないのでここで釘を刺さねば。次駅で見つかる時に控えてくれる……いや、それは無いな。次また見つかった時、俺の隣が壁でなく人だったら、「壁じゃないから体痛くないでしょ?」になる。メンヘラの中に第三者の迷惑なんて思想はない。メンヘラの思考はまず自分、次に依存対象、即ち俺、そしてその俺に説得されてようやく第三者のことを考える。そして自分の善し悪しは俺の善し悪しなど基本的に蔑ろだ。
とはいえ、恩塚さんはまだ良識的。体を押し付けるのをやめてくれた。……こういうのもどうかと思うが、実は恩塚さん、前は胸がでかいと言ったがそれはオブラートな言い方で、オブラートをとっぱらって言うなら太っている。ぽっちゃりとかそういう域ではなくナチュラル且つシンプルに肥満だ。自覚はあるらしいため、男の俺でも押し付けられればガチめにしんどいのは理解してくれているのだ。ちなみに、恩塚さんがヘラった理由は成績が原因で家族に見下げられているせいであり体型ではない。中学の卒業式の日にご家族の姿を見たが、ご両親揃って肥満だったので多分一家揃ってなのだろうし、その点で家族に蔑まれることは無いのだろう。多分。
俺たちが降りる一駅前で恩塚さんは電車を降りた。はぁ、やっと圧が消えた。空白に逆に違和感が残る。ちなみにほか3人は向かい側の席に座ってこっちをニヤニヤ見ていた。殴るぞ。
ようやく俺たちが降りる駅に着く。この駅初めて来たなぁ。
結構人が多く、そのほとんどが俺たちのような高校生くらいの学生だ。中には小学生もいることから、多分子持ちが多い住宅街なんだろう。
「たむたむんちどこ?」
「あそこ」
たむたむが指し示す場所には、確かに田向歯科と書かれた看板と、清潔感のある外装の小さな歯医者、そして併設されている綺麗な広い家があった。
「うわー、見るからにでかい家……」
「さすが金持ちぃ」
歯医者の扉はもちろんスルー、家の玄関から俺たちは家に上がった。
「お邪魔しまーす」
声を揃えて言うと、ひょこっとお母さんと思しき人が顔を出した。俺たちを見てぱっと笑う。
「まぁまぁまぁ! いらっしゃい、
ニコニコの満面の笑みで俺たちを歓迎してくれるとは。嬉しい反面少し面映ゆい。いうまでもないが誠斗はたむたむの下の名前だ。ちなみにお兄さんは
俺たちはたむたむの部屋に案内された。おお……凄い。思ったより清潔感のある部屋だし、それ以上にすごいのが結構大きめのテレビがあるし、その他にもドリンク用の冷蔵庫、でっかいオーディオ……そして何より部屋が広い。そして一体今日のような日以外のいつ使うのか、大きなガラステーブルまであった。
「すっげー! たむたむの部屋すげー!」
「ほんっとにすげぇ……高校生の部屋かこれ?」
「まぁ甘やかされてる自覚はあるけどなー。そんなことよりやろうぜ」
たむたむに促され、部屋の豪華さに呆然としていた俺たち……主に俺と佐々木は現実に引き戻され、俺たちは勉強を始めた。
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