34限目 ド世代だわ!

 体育館で2人で座れる席を見つけて座った直後、ダンス部の発表が始まった。

 ダンス部は男子ダンス部と女子ダンス部に別れていて、今は女子ダンス部がやっている。曲は男女合わせて9曲らしい。時間の関係で、1曲1曲は1分半程度で終わるようだ。

 まずは女子1年生。曲は去年の夏頃からEテレで流れて流行ったものだ。ダンスの振り付けもその曲の振り付けをベースとしているらしい。

『パプリカ 花が咲いたら晴れた空に種をまこう ハレルヤ 夢を描いたなら──』

 ……とてもゆったりとしていて可愛い踊りだ。子供向け番組のため作られた曲なだけある。しかも人気歌手の作った曲だ、高校生でも聞きやすいのはさすがと言わざるを得ない。

 続いて2年生は、AKB系列のアイドル…………正直どのグループの曲かは覚えていないが、まぁともあれ今年リリースされた曲を踊っていた。これも恐らく元のものがあるのだろう、何しろアイドルの曲なのだし。可愛いだけでなく少し大人っぽい曲調だ。

『君のその仕草に萌えちゃって あっという間に虜になった──』

 さすがアイドルらしい少し激しめだけど可愛いダンス。女子はやっぱこういう曲なんだろう。3年生にも期待してしまう。

 女子3年生の発表が始まった。……アイドル路線で来るかと思ったら大間違い、先程とは打って変わって暗い曲……あ、これ……冬頃に吾妻が聞かせてきたアニメ映画の曲だ……。

『ねぇ輪になって踊りましょう 目障りな有象無象は全て食べてしまいましょ──』

 暗く激しいダンスが披露される。曲は思いっきり暗いしなんなら歌詞が怖いが、さすが3年生、力の入ったダンスだった。これを最後に部活引退なのだから、当然と言えば当然か。

 続いて男子1年生。なんか覚えのあるポジション……これは……。

『U-U-U.S.A U-U-U.S.A! ──』

 やっぱりか!まぁそりゃそうだよな!これ来るよな!ちらっと見ると、愛も、やっぱり、みたいな顔で笑っている。期待を裏切らない選曲に、少し客席から笑い声が漏れていた。振り付けはそのままのもののようだ。新鮮味は無いが、まぁここで違う振り付けをされてはそれはそれでつまらないので正解というしかない。

 続いて2年生。あぁ、これも聞いたことある。元からダンスがあるのか、それとも作ったのかまでは知らないが、軽快で明るいリズムだから一から作るにしても作りやすいのだろう。

『いつか時が流れて 必ず辿り着くから 君に会えるよ どどどどどどどどどドラえもん──』

 やっぱり流行りの曲が多いな。ダンス部たるもの、曲の流行に敏感でなくてはならないのだろう。YouTubeや音楽番組のチェックは欠かさないに違いない。

 続いて3年生。女子と違ってとてもアップテンポで……いやこれは多分吾妻に聞いたな。たしかボカロの曲で……人間とボカロのデュエットなんだ!とやたら興奮して話してきた記憶がある。聞いているとたしかに、人間の声とボカロの声、両方で歌っていた記憶がある。

『さぁ君の全てを 曝け出して見せろよ ロキロキのロックンロックンロール──』

 激しくて、キレッキレで……かっこいい……今までスポーツはバスケ1本でダンスなんて触れたこと1度もなかったけど……こうして見ているとやっぱりかっこいいもんだな。

 続いて女子全員。前奏が流れて──あぁ、みんな知ってる。観客席から「おお!」という声が盛れた。全然世代じゃない俺でも知ってるのだ、ドンピシャ世代は大盛り上がりなようで手拍子まで聞こえてきた。

『ごめんね素直じゃなくて 夢の中なら云える 思考回路はショート寸前 今すぐ会いたいよ──』

 選曲もダンスも凄い。観客から溢れる感性で、思わず俺も愛も笑ってしまっている。お互い笑っているのが分かって同じタイミングで視線を向けていて、また笑ってしまった。

 続いて男子全員。女子が魔法少女なら男子はライダーやレンジャーなのか、曲が流れ始め……知ってるわこれ!!見てたよ!!ド世代だわ!

『Anything gose その心が熱くなるもの 満たされるものを探して──』

 多分6歳とかそのくらいの時のやつだ……うっわー懐かしい。やっぱり高校生だとその世代はあまりに多いのか、手拍子が聞こえる。

「……ふふ」

「愛?」

「私たちも見てたね、これ」

 そうだ、見ていた。日曜の朝に愛がわざわざ俺を迎えにきて、一緒に見よう!と誘ってきたのだ。そのうち自然消滅していたけど、ちゃんと覚えている。

「めっちゃ懐かしいな」

 そしてラスト、部員全員での披露。この曲はちゃんと1曲分やるらしい。流れたのは、ジャニーズアイドルのデビュー曲だった。来年の末には活動を休止するというニュースが流れて大いに騒ぎになったが、それでもまだ根強い人気がある。

『You are my SOUL! SOUL! いつもすぐそばにある 譲れないよ 誰も邪魔できない──』

 最後のサビに入り、決めポーズをすれば、大歓声と拍手が巻き起こる。ダンス部は一礼をして、午前の発表を終えた。


「楽しかった! 次が三年生の劇だよね」

「原作ラプンツェル……だっけ?」

 …………愛は知ってるかどうか知らないが、ラプンツェルは結構えぐい話だと……聞いたことがある。性的な部分は恐らくグリム童話に載る時に改変されたように一切カットしてあるだろうが、それでも夢の国用に作られたキラキラのラプンツェルとはえらい違いだ。なんでそんなことを知っているのかと言うと一時期……具体的には約2年前、オタクも非オタも男女も差別なく1度は訪れる年齢病に罹っていた頃、未解決事件だとか本当は怖い童話とかを読むことにハマっていたからだ。もちろんピノキオやシンデレラなんかの原作も知ってる。なんでその方向にハマったのかについては覚えていない。

 などと考えていたら、アナウンスが響いた。

『ご来場の皆様にお知らせです。体育館では10時丁度より、3年A組による劇、原作ラプンツェルが上映されます。原作とはいえ、全年齢ように改変してお送りいたしますので、お子様でも問題なくご鑑賞頂けます。是非お楽しみください』

 ……原作を知ってる人への配慮が流れた。まぁ、子連れで原作知ってる人は迷うよな、そりゃ。もちろん高校の文化祭でありのままやったらやばいんだけど。




「あぁ、ラプンツェル……ラプンツェル、君なのか?」

「えぇ、えぇそうよ! まさかまた貴方に会えるなんて、想像もしていなかったわ! こんなに嬉しいことが、この世にあるかしら!」

「私もとても嬉しいよ、ラプンツェル……あとはこの目が、見えてさえいれば……君と私の子供たちにも触れることができるのに……」

「貴方……それでも私は、貴方がいるだけで幸せよ」

『──ラプンツェルの嬉し泣きの涙が、ポツリと王子の目に落ちました。すると、王子の目は魔法の力を得たように輝いたのです』

「……う、うぅ……」

「……貴方、目が……! 見えている? 私が、見える?」

「……信じられない。茨で視力を失って、7年も一人で彷徨っていたのに……! 君が見えるよ、ラプンツェル! 7年前と変わらない美しいその顔が! もちろん、子供たちの君によく似た顔も! ……ここで暮らすには不便も多いことだろう。私の国へ帰ろう、ラプンツェル、子供たち!」

『王子とラプンツェルは、荒野を抜けて王子が生まれた国へと帰りました。国は失踪していた王子の無事と、その王子が迎え入れたラプンツェルたちに喜び、一家は末永く幸せに暮らしたのでした……』

 緞帳が降りて舞台が暗くなるのに合わせて、ナレーションが囁くように言う。緞帳が降り切ると、客席から拍手が響いて、同時に客席側の明かりがついた。

『続いてのプラグラムは、10時45分より、合唱部の発表となります──』

「……どうする愛? 見る?」

「んー、興味はあるけど……でも他の出し物も見たいな! 別のところ行こ!」

「ん。わかった」

 俺たちは立ち上がって、体育館から出ていった。

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