33限目 一緒に回れる!
たむたむによって佐々木と馬渕がいるところに移動させられた。2人はどこか、ふふんとちょっと得意げな笑みを浮かべている。
「お前がシフトしてる最中にちょっとあるアイデアが浮かんだんだけどさ、お前明日、誰か1人とシフト変わってくれね? 誰でもいいからさ」
「……誰か一人と? 君らの中に用事がある人がいるとかでなく?」
「そ、誰か1人。理由はこの後話すからさ」
……うーん、佐々木は時間離れているし、たむたむの時間は嫌だし……馬渕かな。
「……じゃぁ。馬渕かな」
「おっけ、サンキュー。じゃ、明後日は俺だな」
「おう、頼むぜ馬渕」
「え? え?」
混乱する俺に3人が笑いかける。鈍感だな、と言いながら。
「明後日のお前のシフトは俺が引き受けるって言ってんの」
「え……」
「たむたむたちと話したんだよ、お前がシフトの間。明後日結城は幼馴染が来るんだろ? だったらメイドカフェでシフトやってる場合じゃなくね?」
「でも……」
「いいからいいから! 任せとけって!」
ありがたいけど、申し訳ない。どうしようかと考えていた俺だが、最終的に愛と一緒に回りたい欲が勝って、ありがとうとその申し出を受けたのだった。
帰ってからすぐ、俺は窓を開けた。暑いからか、愛は既に窓を開けている状態だった。
「愛!」
「わっ、おかえり陽向! 文化祭どうだった?」
「楽しかったよ。それでえっと……明後日なんだけど、友達が気を利かせてくれてさ……明日長くシフトをやる代わりに、明後日のシフト代わってくれたんだ」
「え!? 良かったねぇ! じゃぁ……」
「うん、一緒に回れる!」
「やったね! 陽向の友達めっちゃ良い人じゃん! 類友だ!」
「類か?」
クスクスと笑いながら返す。類だとしたらなぜあの3人はメンヘラに引っ付かれるような人生送ってないんだ。陽キャだからか。陽キャだからなのか。
「でもそれなら友達に連絡しとくね」
「あ……一緒に回る予定だった人?」
「うん。あ、でも心配しないで。2人誘ってるから、その子が1人になるってことはないから!」
「あ……そっか、良かった」
「ほら、そういうところ。やっぱり陽向は優しいなぁ。……陽向の女装が見れないのは残念だけどそれ抜きにしても楽しみ! 遊び倒すつもりだから今のうちに勉強しないとだ!」
予定詰めてまで楽しみにしてくれていると思うと、俺の方も楽しみになるというものだ。あとはメンヘラ……主に愛のことを知らない名倉さんさえどうにか出来れば大丈夫……だろう、多分。
翌日、文化祭中日は馬渕くんのシフトを代わった以外は特に何かおかしなことは無かった。あるとすれば樋口くんが俺の代わりと言わんばかりに陽キャたちに絡まれていたくらいか。どんまい。
メンヘラたちはここ2日間大人しい。伊藤さんは言ったとおりちゃんとシフトに参加しているようだし、他のメンヘラはそんなことは無いが俺に変に寄ってくるということもなく、とても平和的だ。もちろん視線は感じるし、ちょっかいをかけるなら一般参加のない今日になるかと思ったがそんなこともなく。不気味なくらいに大人しくて少し怖いくらいだ。
……まぁ放課後は寄ってくるのだが、部活に呼ばれていると嘘をついて逃げた。樋口くんは帰ったが、メンヘラは俺の事しか見てないのでそれに気づかれることはない。……しかしもちろん呼ばれてもいないのに学校に留まる訳にも行かないし、そもそも文化祭期間中は部活がないというのが大前提であるため、終わったらすぐの帰宅が推奨されている。幸いにもメンヘラたちは帰ってくれたが、俺の精神的疲労はたったの10分程度でいっぱいいっぱいだ。
「…………」
あとは明日。まぁ今日みたいに、何にもないことを願おう。特に伊藤さんは危ない。言葉ではなくリアル刃物を持ちかねない。
本当なら、愛には友達と来て欲しかった。でもみんなに気を使われて、愛自身も俺にシフトがあるとしても俺と回ることを楽しみにしてくれていたのだ。そこまでされて、そこまで想われて跳ね除けるほど、俺は身の安全のためだからと心を鬼にすることは出来ない。
…………愛に言われるとおり、こういうことろ、なんだろうな……。
そして、遂に一般参加日。今日の文化祭は9時から17時までだ。愛は道はちゃんとわかっているとの事だったし、俺の学校の傍には別に休憩できるファストフード店とかないため一緒に来るということまではしなかった。というか並んで歩いていたら文化祭でも容赦なく校門で待ってるメンヘラが何をしだすかわからない。
別に侍らせたくないメンヘラを左3人右2人に添えながら、俺は今日も教室へ向かうのだった。
「今日が本番と言ってもいい、文化祭最終日、一般参加だ! 今日までの間、みんなよく頑張ってくれた! 今日は忙しいだろうし、楽しむ暇もそうそうないだろう。だが恐らく昨日と一昨日の二日間は楽しめたと思う! 今日はお客様のため、精一杯尽くすことを考えよう! 1年A組! 最後まで頑張ろう!」
「おー!!」
学校全体が各々準備を始め、ついに九時……学校の門と正面玄関が開いた。来賓の方や一般の方が流れ込むようにやってくる。俺は佐々木の着替えている生徒指導室の前で愛を待っていた。生徒指導室にいるのはもちろんメンヘラ対策だ。
小本愛【今校内に入ったよ! 生徒指導室どこ?】
結城陽向【1階の教室棟の1番奥。近くに1年次職員室があるよ】
直ぐに既読がつき、しばらくして、まなの姿が見えた。……とても、お洒落している……。いつもツインテールしている髪は下ろしてあってつやつやだ。女の子らしい少し胸元が開いた細身のTシャツにミニスカートにハイソックス……白を基調にパステルカラーの緑と青が柄に入っていて清潔感もありつつ涼しげ……一言で言うならめっちゃ可愛い。
「陽向! ……どうしたの? フリーズしてるよ?」
「えあっ……ご、ごめん! その……普段部屋着か制服姿しか見ないからびっくりしちゃって……」
「あは! なんだそんなこと? 当たり前じゃん、楽しみにしてたんだから!」
そう言って笑う愛、とても可愛い。心臓は頑張って生きてて欲しい。
「じゃぁ、行こうか。どこに行きたい?」
「このダンス部の発表気になる! その後の3年生の原作ラプンツェルの劇も気になるし、体育館行こ!」
「分かった。こっちだよ」
人が多い。はぐれないように手を握って、俺と愛は体育館へ向か──おうとしたところで後ろから声をかけられた。
「陽向くん」
想定通り、名倉さん。他の四人は愛のことを知っている。特に実川さんと良木さんの二人は、俺と手を繋ぐ女の子がいることも疑問に思ってないはずだ。小学校の頃は手を繋いで歩くなんてしょっちゅうだった。
「名倉さん……」
「その子は? 彼女かしら? ……いや、付き合ってる人はいないと言っていたわね。妹さん?」
あ、そっか。名倉さんはまず俺の地毛が茶色いことも知らないのか。俺は握っている手を自分の後ろに引いた。少し隠れて、の意図を理解した愛は俺の少し後ろに隠れた。
「幼馴染みだよ」
「そう。仲良しみたいね。楽しんできて」
そう言うと、名倉さんはそのまま去っていった。とりあえずの偵察、的な意味合いで効きに来たんだろう。
「今の人は?」
「クラスメイトの名倉さん。面食いなんだってさ」
「面食いなのに今の陽向に寄ってくるの? 目元とかほぼ見えないのに」
「バイト先で見つかって」
「あぁ……それは仕方ないね」
そんなことを話しながら、今度こそ俺たちは体育館に向かった。
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