31限目 俺も相当今はもさい

 俺たち3人は田向くんの先輩がいるというクラスへ向かったが、その間、じっと田向くんに顔を見つめられていた。

「……あの、何?」

「いや……お前さ、眼鏡とって髪少し整えて見てよ」

「ええ? 嫌だよ学校では」

「ちょっとだけ! ちょっとでいいから、な!」

 どうして、と思いつつも眼鏡をとり、少し髪を整える。眼鏡をつけるのは学校だけとはいえやっぱり少し汚れているらしく、視界がクリアになった。ちょいちょいとボサボサさせている髪を整える。

「……うん、やっぱイケメンだな。よし行こうぜ」

「え!? ちょっと!?」

 田向くんは俺の手をグイッと引っ張った。

「先輩のクラスの出し物がさ、イケメン大会なんだよ。お前を出す」

「俺の同意は!?」

 普段の格好に戻しながら3-Cの教室の前に着くと、たしかにそこにはイケメンギャップ大会という看板があった。教室の前にいる係の人によると、普段はイケメンに見えないけど、ポーズや角度によってどれだけイケメンに見えるかを競う戦い、だそうだ。

「そういうわけでお前はまず普段の格好で出て欲しい。そんで観客の前で眼鏡取って髪をササッと整えて貰うっことよ」

「嫌なんだけど!? っていうかそれって一定条件下でのイケメンを競うんでしょ!? 素の顔を髪とかで誤魔化してるのは規定違反なんじゃ……」

「あ、全然いいよ」

「良いんですか!?」

 看板持ちをしている3年生のその言葉が鶴の一声になり、結局俺は出場が決まってしまった。クラスと名前は伏せられるらしいが、3年生でも俺のことを知ってる人は多い。何せ入学初日でアレである。上級生なら噂だけで、俺の顔までは知らない人が多いだろうとは思うが。

 反論する隙もなくあれやこれやと登場する時に司会が言うキャッチフレーズも決められ、出ることになってしまった。ちなみに現在はまだ9時にもなってない。最終日ははじまる時間と終わる時間が1時間ずつズレるが、2日間は8時から18時まで文化祭があるのだ。もちろん、最終日にはこの学校の生徒は楽しめないから時間を長くとる、という理由で。

「1時間暇だな。なんか食いに行こうぜ」

「待ってそれより俺2年の射的行きたい」

「2年射的してんの? 予算足りたのそれ」

 そんな会話をしながら、俺たちは2年生のエリアへと向かって行った。射的を目的にしていた馬渕くんが何も取れなかったことは察して欲しい。ちなみに景品はドロップとかベーゴマとか謎に昭和だったし、係員の人達の服装も昭和っぽかった。どうしてなんだよ。というか服とかどこにあったんだ。


 そんなこんなで適当に過ごして1時間後、10時少し前になって俺たち3人は再び3-C教室前。結構参加者は多いようだ。参加者はまずつっぱり型のカーテンの後ろに隠れて、番号の書かれた名札を付ける。見学者は番号の書かれた紙と鉛筆を持って、用意された椅子に座っている。椅子に座れるのは先着順のようだが、椅子の数しか見学者がいては行けない、という決まりもないようで、立っている人もいるようだ。

「レディィィィィィィイイイイイスアァァァァンドジェントルメェェェェェェェェエエエエン!! それではこれより、限定的イケメン大会午前の部を開始いたします! この角度ならイケメンに見える、ここ隠してるとイケメンに見える、眼鏡外すとイケメンに見えるなどなど、様々な条件下によりイケメンに見える人たちにお集まりいただきました! それでは最初の5人に出てきていただきましょう!」

 テンションが異様に高い司会者の声と同時にカーテンが左右に開く。俺たち5人は一斉に前に1歩踏み出した。俺はエントリーナンバー2なので、1と3の人がよく見える。やっぱりどちらも冴えているとは言い難い。素の状況で何してもイケメンは参加者として除外されるのだろう。いや俺も相当今はもさいのだろうが。

「エントリーナンバー1番! その口元を隠すとイケメン! さぁイケメンになっちゃってぇ!!」

 隣の人がマスクをつけた。おお……唇がぶ厚くてとんがっていたからあれだけど、確かに目元はかっこいいなこの人……観客席からも「おおお!」と声が上がる。

「続いてエントリーナンバー2番! なんでそんな格好してるのよいけずぅ! さぁイケメンになっちゃってぇ!!」

 ……左手で眼鏡を外し、田向くんたちのアドバイスというか、提案された髪を整えるより簡単な方法として、前髪を右手で掻き上げる。何度も言うが、正直俺がここにいるのは規約違反と言ってもいい。だがまぁ、これは学校の文化祭。そういうのが1人くらいいたって何一つ問題は無いのだ。

「おおおお!?」

「イケメンだ!?」

「素がイケメンじゃねーか!」

 その他にも、目元を隠せば、角度を変えれば……とイケメンは出てきたが、素を晒してイケメンなのはやっぱり俺くらいだった。ちなみに観客席に配られていたのはアンケートというか、投票用紙だったらしい。1番イケメンだったのは誰かというものだ。

 少ししてその結果が出た。

「それでは結果はっぴょぉぉぉぉぉぉおおお!! 今回1番のイケメンはエントリーナンバー2番!! 何故かその顔を隠すイケメンでした!!」

 何となく分かってはいた。

「今回残念だった皆様はぜひ3時開催の午後の部へどうぞ! それまではどうかこのクラスの全員で踊った女々しくての映像をご覧ください!」

 一日2回じゃ当然時間も余る。俺は受付の人に優勝賞品を貰い、教室から出た。そして、シフトの変わるタイミングだったため結果を見届けた馬渕くんは駆け足で教室へ向かっていく。

「やっぱお前イケメンだな」

「どうも……あまり嬉しくはないんだけど」

「そういうなって。あとそれ中身開けてみようぜ」

「いいけど……なんだろこれ?」

 貰ったのは小さな包みだった。文化祭中は至る所に机と椅子を配置して休憩スペースにされているところがある。俺達もそこへ向かっている途中、佐々木くんが合流した。

「馬渕から話は聞いたぜ。優勝おめでとう結城」

「あーうん、ありがとう……」

「なぁ、佐々木はこれの中身なんだと思う?」

 田向くんが言うと、佐々木くんは俺が持つ包みをじっと見つめた。

「んー……サイズ的には菓子? 今からどっかで開けんの?」

「うん、休憩スペース行こうと思ってる」

「お、だったら来る途中に2年のA教室に空きがあったぜ」

 と言っても、2日間は基本空くのだろう。空きが見つからないのはおそらく三日目、一般参加日だ。

 適当な場所を見つけて座り、俺は机に包みを置いて中を開いた。中に入っていたのは……。

「……」

「……」

「……指輪ケース?」

 そう、結構な過重包装の中に入っていたのは、指輪ケース。開いてみると、もちろん指輪が入っていたが、恐らくこれはガラスで宝石を再現した玩具だろう。まさか本物の宝石がはめ込まれた指輪が入っているわけが無い。

「どういう意図の優勝賞品なのこれ?」

「あれじゃね? イケメンなんだから自信もって告白しろってことじゃね?」

「ええ……何そのこじつけみたいな理由……にしてもあのクラスどんだけ予算少なくやってるの」

「なんか金は別のところに使ったらしい」

「どこに!?」

「ダンス映像とかじゃね? 知らんけど」

 ダンス映像の何にそんなに金を使うのか分からないが、まぁ考えても仕方ないか、と思いつつおもちゃの指輪を眺める。使わないなぁ、どうしよう。

「まぁ記念にしとけばいんじゃね?」

「田向くんとか要らない?」

「要らねーわ。あと」

 ケラケラ笑いながら田向くんは言った。

「いつまで君付けするんだよ、渾名とか呼び捨てでいいよ」

 そういえばキャラ作りで君付けが癖になっていたけど、同じグループの3人は俺の事情知ってるんだった。

「……ありがとう、たむたむ。で、改めてこれ要らない?」

「いらねっつの」

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