戸棚の奥と、御伽の国

主宮

戸棚の奥と高校生の不思議の国

 蒸し暑い高2の夏にした、不思議な体験の話。


 俺は光瑠。普通の高2だ。とか言うテンプレの挨拶しかできない普通の高2だ。ある夏、とあるものを探して家の戸棚を漁っていた。

「どこ置いたっけなー…おっかしいな、ここに置いた気がするんだけどな…」

がさごそ、がさごそ

 数分間漁っているうちに、それらしきものが一番奥から見つかった。

「あ!あった!」

 そう思った俺は、精一杯戸棚の奥に手を伸ばした。届きそうで届かない。

「もう…ちょっと!もすこしのばせば…!」

 そうして腕を伸ばしていくうち、頭が戸棚に入った。そして、それを手に取ったと思った瞬間バランスを崩して目の前が暗転した…

 目が覚めると、綺麗な庭の真ん中にいた。花が咲き乱れ、蝶が飛んでいる。すっごいファンシーな世界だ。

「うぇー…どこだ?ここ…」

 どこで見たかも分からないような景色で、困惑していた。近所の庭じゃない。まるで、花畑の真ん中だ。空にはポッカリと黒々とした綺麗な穴が空いている。見れば見るほど奇妙な光景だった。空に穴が空いているから、まるで造られた箱庭のようだった。とりあえず俺は、あてもなく元の世界へ戻るためこの世界を探索することにした。

 ここら辺には人影が見当たらない。生きている人は俺しかいないのだろうか。そう思った時、一つ、小さな人影を見つけた。見れば見るほど小さく、小人のようだった。少し怖かったが、話しかけてみることにした。

「あ、あのー?ここってどう言うところですか?」

「ここに来る人とは珍しいね。ここは、名前もないところだよ。だって誰にも見つけられてないんだもの。名前なくてもいいし。」

「適当だなぁ…」

「ここの名前を呼ばなくてもいいんだもの」

「そうなのか?」

「最近ここから人々が消えつつあるんだ。ここの人々の物語が失われつつあるから。」

「物語?」

「ここの人々は個々の『物語』を持っているんだ。それをなくしてしまうと、存在がないものと同じものになってしまう。」

「恐ろしいな…」

「キミも長居しない方がいいよ。物語がないと存在できないように、この世界に蝕まれてしまうから。」

「え…?」

「また今度続きのお話をしよう。頼みたい事があるんだ。分かったらさあ早く!そこの穴へ飛び込んで!」

 困惑して振り返ってみると、さっきまでは開いていなかった穴がぽっかりと、黒々とした口を開けていた。

(こんなところに穴って空いてたっけか…?)

 そう考えていると、後ろからどっとぶつかった衝撃を感じて、そのまま深い深い穴の中へ落ちていった…

(死んだ…!?)

 そう思って目を開けた瞬間、そこは元いた戸棚の前であった。

(なんだったんだ…?夢か…?)

 そう思って立ち上がった時に、ポケットに違和感があった。手を入れ探ってみると、

『夢じゃないよ。また、話を聞きに来て。』

 言葉の書いてあるコインが一枚、入っていた。ここから俺の『非日常』は始まった…

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