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先ほどまでのルナ・ゲートの光景はどこかへ弾き出されていた。
わたしは――違う、わたしたちは宇宙を漂っていた。周囲を囲む星の光が天国のようだった。
わたしは、いつの間にか人間の体を取り戻していた。隣には、彼がいた。わたしたちは寄り添って白いLUNAの巨体を視界の隅に捉えながら、青く輝く地球を眺めていた。
後ろを振り返ると、神々しく光を放つ月が浮かんでいた。
「こんな神話を知っているかい?」
穏やかな彼の声が、まるでテレパシーのように頭の中に響いた。その声は体の隅々まで染み渡っていった。
セレネという月の女神がいた。
彼女には、自ら熱烈な恋心を抱く青年がいた。その名はエンデュミオン――ゼウスの孫に当たる大変美しい青年だった。
あるとき、彼はゼウスから「このまま生きて死ぬか、不老不死となって永遠に眠り続けるか、好きな方を選ぶがよい」と言われ、不老不死を選んだ。その代償として、ラトモス山の洞穴の中で永久に覚めない眠りにつくこととなった。
あるとき、セレネは眠り続けるエンデュミオンを、天空から目撃した。地上に降り立つと、彼は覚めない眠りについていることを知った。セレネは彼の夢の中に入り込み、彼との恋に生きた。
セレネはルナとも呼ばれる――。
わたしは、それを聞いて息を飲んだ。あまりにも自分に似た境遇。
わたしは、この宇宙から地上での彼の死を見てしまった。そして、わたしは虚世界へと、彼を連れ込んでしまった。わたしは、そこで彼と永遠の時を過ごしたかった。それが現実には決してあり得ないことなのだとしても。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
わたしは、LUNAを任されたシステムに過ぎない。それが人々をパニックに陥れ、挙句の果てに1人の少女すらの命さえ奪ってしまった……。
わたしには……彼との世界を歩んでいく資格などあるのだろうか。私の手は血みどろだ。私をめぐって1人の女性の命も失われてしまった。
わたしさえいなければ――。
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