〝42〟
まるで波紋でも空間内に広がったように、ヴィジョンが揺らぐ。
「ルナ、分かっているはずなんだ」
彼は、〝わたし〟を見ていた。他の人間たちは悉く蚊帳の外に置かれていた。
「私は、さっきまでここには存在していなかった」
「何言ってるんだよ」苦笑いで神崎が応じる。「さっきからずっとそこにいたじゃないかよ」
「文章を読んでください。地の文は、雛森芽衣と多良部沙羅の間で転々とし、私は彼女たちの名前をフルネームを使ったり、名前で読んだりしている。目に見えて混乱が現れているのです」
太田の意味不明な発言に一同は口を開けたまま魂を抜かれたようにしていた。
「今、ここにいる神埼さんや結城さん、芽衣ちゃんか沙羅ちゃんか分からない君。あなたたちには、意味が分からないことを言っていると思います。でも、ただ1人、これを完全に理解できる人がいる。それは、ルナ、君なんだ」
彼は再び〝わたし〟を真っ直ぐに見つめた。
違う。太田は間違っている。
「君は僕の死を認めたくなかった。それは嬉しい。でも、それは真実じゃない。君は真実から目を背けたんだ。これは現実じゃない。
君は沙羅ちゃんをあの第6空気制御室の中で絶命させた。そこに、ICタグの性質を下に新たな事実を作り上げた。沙羅ちゃんを殺したのは、自分ではないと。そうすることで、君は、君が沙羅ちゃんを殺した動機であるLUNA内での僕の死を否定しようとしたんだ。でも、君自身、そうはならないことを知っている。僕が2度死んだことを知っているんだ。そして、僕の2度目の死が今回の事故の原因となったんだ」
どうして彼は、この事実を認めようとしないのだろうか。これは、唯一絶対無二の真実なのだ。否定することなんて、出来ないのだ。
彼は、それを否定するだろう。わたしは心のどこかで彼のその言葉を待っていたのかもしれない。
この事実を認めない彼を、わたしは認めたくない。けれど、認めたい、でも、認めたくないのだ。
認めれば、彼は死んでしまったことになってしまう……。
嫌だ――。
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