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 錯綜の雛森を支えるようにして、神崎はシャトルの前までやってきていた。すでに結城は乗り込んでいた。放心した雛森に言葉をかけ、ようやく支えられながらでも歩けるようになるまではかなりの時間を要した。それでも、雛森はかけた眼鏡を放そうとしなかった。

「一人で歩けます……」

 憔悴し、すっかり明るさを欠いてしまった声が耳元で囁かれると、ようやく神崎は彼女の肩に回していた腕を解いた。

「帰りましょう……。地球へ」

 心配げな眼差しを送る神崎を背に、雛森はシャトルへのステップを踏んだ。

 電子音がしてシャトル入り口に常設されたICタグリーダーが雛森を認識した。

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