30

 駆けつけた救助隊がシャトルに太田たちを収容したのはそれから30分後のことだった。はじめは事情を話す彼らだったが、今は黙して一箇所に固まっていた。

 救助隊の説明では、このあとに調査隊が派遣されるということだった。しかし、一同の心を揺さぶったのはそのあとに続けられた言葉だった。

「今は地上でも調査が続けられています。実は、LUNAへの定期便が出発した直後に銃乱射のテロが発生したんです。大勢の死者が出ていますので、このシャトルは元の空港へは向かいませんので」

「犯人は、どうなったんです? まだ危険があるんですか?」

「犯人は駆けつけた警察隊に囲まれて自殺しました。もう危険はありませんが、空港は使用が不能になっているんです」

 それに続く説明では、LUNAへ出発したシャトルが予定を崩さずに目的地に到着したのは、ジェネシス社の配慮によるものだったという。客の楽しみを削ることはないという判断がなされたというのだ。

「とにかくご無事で何よりでした」

 隊員が去っていくと、額をつき合わせた4人の間に再び沈黙が訪れた。


 数十分後、シャトルはLUNAを静かに後にした。片桐と雛森の遺体はLUNAに残されたままだ。現場検証を待つためらしい。雛森の遺体は太田たちがLUNAを発ったときにもまだ発見されていなかった。宇宙空間に放り出されてしまっていたとすると、おそらくもう彼女を回収するのは不可能だろう。雛森は文字通り星になってしまうのだ。

「これが」

 シャトル内の駆動音に紛れて太田の声が流れ出てくる。

「ルナの望んだことだというんですか?」

 その問いは誰に宛てられたものでもなかった。

「芽衣ちゃんが片桐さんを殺したのも、芽衣ちゃんが自らの死を選んだのも、全てルナが決めたことだというのか?」

 彼に答えるものは1人としていなかった。沈みきった空気を乗せてシャトルは地球を目指す。彼らの望む地球への帰還は、こうして果たされることとなる。しかし、彼らの思いは晴れたものではなかった。悲痛な、もどかしい、釈然としない表情がそれを現していた。喜ぶべきことは、なかった。

 空虚だけが満ちていた。

 神の掌だけが彼らを捕らえていた。――これが運命なのだと。

 地球の青い光が、布に染み渡るように大きさを増す。

 待ち望んでいたはずの光が今では白々しく揺らめいていた。

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