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「最終アクセスは……これは、最初の衝撃のあった後になっていますね」

 結城は流れるような指の動きでコンソールを操作すると、呼び出した情報を要約した。

 制御管理室は、コードネーム・アルファとは違い、至極普通的な部屋だった。部屋の一面に巨大なコンソールがすえつけられており、その向かう壁面に巨大なモニターが設置されていた。そこでは、LUNA内部の映像を選択し表示することができた。

「しかし、このアクセスは正当な手続きのもとで行われています。おそらく、あの衝撃の後、ルナを調査するためにアクセスしたのでしょう。ここで通信手段の確認も行われています。通信機器は使えない。まあ、ここからルナにアクセスしたとしても、システムを破壊することはできないでしょうが、とにかく不正アクセスはありませんね。あ、いえ、ここにありました。片桐さんによる不正回線。これだけです」

 多良部は難しい顔をしていた。

「仮に片桐さんがルナに侵入してシステムを破壊したとしても、変なことになりますね」

 一同は首肯した。片桐による侵入は最初の衝撃の前であるばかりでなく、2回目の衝撃のあとに行われているのだ。システムが破壊されて『ラー』システムが沈黙したとしても、衝突の起こった原因は謎のままとなるのだ。

「私たちに足りないのは、衝撃が起こったときのLUNAの外の様子ですよ」

 太田は頭を抱えた。それを見て、急に多良部が生き返ったかのように声を上げた。

「そうだ! 本当に衝突なんてあったのかって太田さんはいってましたよね。外殻に損傷が見られなかったって」

「なんだと!」

 神崎が大きく身を乗り出してきた。雛森も目を見張っていたが、驚く気力も失ってしまっているようだった。

「どういうことだよ、おい。そんなこと1回もいってなかっただろ」

「いえ、いおうとしたんです。でも……」

 神崎もそこまでいわれれば理解が及んだようだ。掌をひらひらと振ってみせると、先を促した。太田はこれで何度目かの説明をした。望遠鏡での外殻調査。損害は見当たらなかった。

「なんだよ……それ。今までいろいろ考えてたのが馬鹿みたいじゃねえか。実際に衝突がなかったというのなら、なにか、お前らのいう別次元とやらが関係してくるのか?」

「私も、そのことをずっと考えていました」太田の厳しい表情が問題の深さを想起させる。「物質的にダメージがなかった。しかし、このような事故が起こったということになっている。やはり、別次元での衝撃がこちらの次元にも影響を与えたと考えるほかはないと思うんです」

 今度は多良部が懐疑的な顔で疑問を投げかけてくる。

「でも、あの衝撃は本物でした。私たちの感じる感覚までもコントロールされているはずはないと思うんですけど」

「それは、きっとこういうことだと思うんだ。LUNAには姿勢制御のシステムが備わっている。つまり、噴射かなにかで姿勢を制御するわけだ。それを利用すれば、衝撃は引き起こすことができるんじゃないか」

 息を飲む音がする。

「だけどよぉ、なんでそうなるんだよ。ルナがそんなことをしたんだろ? なんでそんなことをする必要があるんだよ」

 神崎は半ば自暴自棄といった様子だ。不可思議なことに囲まれてしまっては、無理もない話だ。神崎の問いはそこが終着点でもあるかのように、全ての推測を跳ね返してしまう。シュヴァルツシルトの半径が光を逃がさないように、彼らは「何故」という問いに閉じ込められている。神崎は、我に返ったように新しい見方を提供する。しかしそれは、諦めでもあった。

「まあ、いいさ。別次元があるっていうんなら、そこで納得の行く素晴らしい解決がされるんだろう? 俺たちの次元ではそれが無理っていうだけのことさ」

 太田は背筋の寒くなるのを感じていた。

 今ここにいる自分は一体なんなのか。そもそもここにいるのは紛れもない自分なのか?

 彼は自分が自分であると信じたいと思う。

「私は諦めたくはないです。何か手がかりがあるはずなんだ」

 決意を新たにする太田を多良部は少し冷ややかに見つめていた。

「でも、太田さん、ルナの事象計算の及ぶのがLUNAの内部だというのなら、その場にいる私たちはルナの手の中にいるということになりませんか? だとしたら、私たちはルナの影響を受けているということになる……」

 太田は、その言葉を振り切るように何度も何度も首を揺らしていた。

「ここにいるとおかしくなる。出ましょう」

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