立秋

 二十四節気の一つで暦の上ではここから秋になる。


 「あっづ……」


 どこが秋だ。

 まだ朝4時過ぎだと言うのに、尊は湿気を含んだ暑さに耐え兼ねて目を覚ましてしまった。


 「んぅ……」


 「え?」


 熱を発する塊がもそっと動き、小さな声を上げる。

 一瞬で脳が覚醒した尊は、暗闇の中に蠢くシルエットを凝視した。


 「ユメ?」


 寝起きの暗がりに慣れた目に写るのは、隣の部屋に住んでいる筈の夢乃だ。


 「あつぃ……」


 「そりゃこんな狭いベッドに二人で寝りゃ暑いだろ。てか何で毎度俺のベッドに入って来るかな?」


 「すぅ……」


 「あ、こら寝るな。自分の部屋に……って……」


 尊は諦めてベッドに体を横たえるも、湿度と気温の高さに再び眠気が訪れるような気がせず、溜息を吐いて上体を起こして暗闇に浮かぶ夢乃の寝顔を眺めた。


 (この熱帯夜で寝続けられるってある意味才能かもしれん。)


 尊は手を伸ばしてベッドの縁に置いてあった団扇を取り夢乃を扇いだ。

 尊の扇ぐ風に夢乃の髪がさらさらと泳いでいたかと思ったら、突然夢乃が寝返りを打って仰向けになった。


 (をぉっ!?)


 暗がりの中、窓から射す微かな灯りが夢乃の胸元を照らす。


 (ノーブ○!?)


 暑さも忘れて完全に目覚めた尊だった。

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