賀正

 『新年をお祝いします』という意味を簡略化した言葉。

 目上の人に使うのは避けた方が良い。


「がしょぉ。」


 尊がダウンコートを羽織って玄関を開けると、煌びやかな振袖を着て日本髪を結った夢乃が立っていた。


「が、がしょ?あぁ、『賀正』ね。明けましておめでとう。今年も宜しくな。」


「こちよろぉ。」


「こちよろ?こ『と』よろじゃなくて?」


「『こち』らこそ『よろ』しく、の略。」


「最近はそんなのもあるのか。」


「今作ったの。」


「あそ。」


 夢乃はくるっと向きを変えると尊宅の門扉を出て道路に降り立ち、また尊の方にくるっと向き直った。

 微妙に夢乃の頬が紅く染まっているように見えるのが何とも色っぽい。


「か、顔紅いけど大丈夫か?寒い?」


「んふふ~……えぃっ!」


「のぉっ!?」


 玄関の段差を降りた尊の腕に夢乃がしがみつく。

 狼狽える尊の鼻をくすぐる酒の香り。


「ってもう呑んでるのか!?」


「だってがしょぉだもん。呑んだっていいじゃん。」


「いやいや!ダメじゃないけど今から初詣行くんだよな!?」


 ピタッと動きを止める夢乃。


「ど、どした?」


 さっきまで紅かった夢乃の顔が白い。


「ぎもぢわるい……」


「うわぁぁぁっ!」


 今年も二人をよろしく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る