暫時

 暫くの間の意味。

 『ざんじ』と読むが、ふと調べ物をしていてこれを『ぜんじ(漸次)』と間違えて読む人が居るらしく『読み方も意味も全然違うぞ』とツッコミを入れてしまった。


 尊はスーツケースを引いて駅へと向かっていた。

 キャスターのゴロゴロという音が耳障りだ。


「ユメ……」


 駅舎が見える角を曲がると、入口の横に夢乃の姿が見えた。

 夢乃も尊に気付いたように、一瞬はっとした顔を見せた後、ゆっくりと尊の方へと足を踏み出す。

 一旦足を止めた尊も、その夢乃を見て再び足を前へと運ぶ。


「タケ……」


 いつもと違う、少し寂しそうな顔で夢乃が呟くように尊の名前を呼ぶ。

 尊はその夢乃からふっと目を逸らし、『ふぅっ』と小さく息を吐いた。


「本当に行っちゃうの?」


 夢乃が尊のシャツの裾を指で摘まみながら尋ねた。


「あぁ。」


 尊は一言だけそう返す。


「私はどうすれば……」


 涙声とも思える声が俯いた夢乃から漏れる。

 尊の大きな手が夢乃の頭に置かれ、ポンと叩く。


「従兄の結婚式に行くだけなのに何させられてるのこれ?」


「いや、暫しの別れだから。」


「そういうのいらないよ。」


 てへっと笑う夢乃が『いってらっしゃい』と手を振る。




 演技でもモヤってしまう尊であった。

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