克己

 読みは『こっき』。

 自分の感情や欲望に打ち勝つ事。


「で、こっちが外から帰って来たとこ。」


「わぁ~何かダルそうにしてるね~。」


 尊が講義室に入ろうとすると、入口に近い場所で夢乃が大学の友達と話をしているのが見えた。

 夢乃はスマホで撮った画像を友達に見せているようだ。


「これはご飯食べてるとこ。」


「何か一心不乱って感じだね。」


(「何の画像だ?」)


 友達の方は背中を向けているので表情は伺えないが、夢乃は笑顔でスマホを操作している。


「で、これがシャワーの後。」


「きゃーセクシーだねー。」


「でしょ?筋肉の付き方が野性味溢れるって言うか。」


「分かるー。」


(「え?まさか誰か男の画像とか?」)


 尊は夢乃が何の画像を見ているのか気になって仕方ないが、仮に自分の知らない男の画像を見ていたとしても何か言える立場じゃない。


「それでこれが襲われたとこ。押し返そうとしても結構力あるんだよね。」


「えっちだー。」


(「え、えぇっ!?ユメが襲われた?えっち?ユ、ユメの奴いつの間に……」)


 尊は動揺を隠せず、かと言って追及する事も出来ず、モヤモヤとした気分で二人の様子を眺めている。


「てかやっぱ雄猫って力あるよね。」




(「猫かよっ!」)

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