俄雨

 突然降り出して間もなく止んでしまう雨、『俄雨にわかあめ』。

 幾たびこいつに服や持ち物をびしょ濡れにされたことか。


 大学からの帰り道、尊と夢乃は俄雨に襲われて通りがかりにある屋根付きのバス停下で雨宿りをしている。


「いやぁまいったね。」


「突然だもんな。」


「天気予報は『折り畳み傘を持っていた方がいい』なんて言ってたけど、これは折り畳み傘じゃ間に合わないよね。」


 目の前では雨粒が道路に白い花を無数に咲かせ、霧状になった水滴が空気中を漂い、肌に付着していくのが分かる。


「うわぁ……びちょびちょだよ……」


 夢乃を見ると、長袖のTシャツもジーンズも水分を吸って肌にぴったり貼り付いていて、白いTシャツの中に青いブラが透けて見えている。


「あ~ぁ……このTシャツおにゅーだったのにぃ……」


「ゆ、ユメ……」


「ん?」


「えっと……その……」


「?」


 自分達と同じく雨宿りをする人が居る中、尊は言って良いものかどうか迷った。


「まぁ仕方ない。ここまで濡れたら一緒か。ダッシュで帰ろう。」


「え……でも……」


「帰って、一緒にシャワー浴びようよ。」


「!?」


「あはは。行くよっ!」


 夢乃は尊の返事を待たずに雨の中へ飛び出した。




(「一緒に……だと……?」)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る