浴前

 日中の気温が上がり、漂う空気が湿り気を帯び始めると、梅雨の気配を感じ始める。

 そろそろ制汗剤や洗顔ペーパーなんかを用意しておきたいけど、汗をかくたびにシャワーを浴びる事が出来ればいいなと考えてしまう。


「んぐふっ!?」


 部屋の片付けを済ませ、埃と汗にまみれた尊はシャワーを浴びようと浴室のドアを開けた。

 そこに居たのは、今まさにシャツを脱いでブラとホットパンツ姿になっている夢乃。


「あ~タケ、シャワー浴びるんだった?」


「あ、あぁ……う、うん……まぁ……」


「そっか。でももう脱いじゃってるから先に入っていい?」


「お、おぉ……俺は後で……いいよ……」


「ふふっ、悪いね。」


 予期せぬ光景が眼前に映し出されただけに、尊は夢乃の顔を凝視したまま動けなくなっていた。


「えっと……タケ?」


「えっ!?あ!な、何!?」


「さ、さすがに見られてると脱ぎにくいんだけど……」


「おぁっ!ごっごめんっ!」


 尊は我に返り、慌てて浴室のドアを閉める。

 中からはくすくすという夢乃の笑い声と、しゅるしゅると布が擦れる音が聞こえてくる。


『タケも一緒に入る?』


「っ!?は、入れるわけねぇだろっ!」


 夢乃の笑い声が響いていた。




(「俺んちの風呂だよな?」)

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