唐突

 人は案外、無意識の内に少し先の事を考える。

 ただそれは過去の経験に基づく予測なので、自身の経験と見聞きした事以外の予測は難しいらしい。


「あ……」


「ん?どした?」


 大学からの帰り道、尊と夢乃が並んで歩いていると突然夢乃が小さく声を上げて立ち止まった。


「あ、いや……えっと……」


 突然様子がおかしくなった夢乃に尊も足を止めて夢乃の方に振り返る。


「何か忘れ物でもしたのか?」


「いや、そういうんじゃないよ……」


「んん?じゃあ何だ?」


 夢乃は立ち止まったまま、脇を締めて背筋を伸ばした姿勢で固まっている。

 顔は少し戸惑ったような表情。


「具合でも悪くなったか?」


「えっとぉ……」


 引き攣った表情のまま辺りをキョロキョロと見る夢乃に、尊が近付いて顔をじっと見る。

 夢乃は諦めたような微妙な笑顔で尊の顔を見上げた。


「あのさ……」


 眉を八の字にした困り顔が尊のツボを刺激する。


(「かっ可愛っ……!?」)


「な、何?」


 夢乃は尊の右耳に顔を寄せ、内緒話をするような声で言った。


「実は……ブラのホックが外れちゃったみたいなんだよね。」


「ふぐっ!?」


 驚いて夢乃の顔を見る尊。

 困り顔の夢乃が『えへへ』と笑う。




(「俺にどうしろと……」)

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