慄然

 『怖いもの見たさ』という言葉がある。

 怖い事は分かっていて見ておきたいという欲望。


「何かあるって分かってるのに何で地下室なんか行くかな……」


 尊と夢乃はテレビの某ロードショーで放映されているホラー映画を観ていた。


「ほらぁ……音楽までおどろおどろしくなってんじゃん……」


 夢乃の声が聞こえるのは尊の顔のすぐ左側。

 尊の背中に抱き付いて左肩の上に顔を乗せている。


「怖い映画って分かってるのに何で観るんだよ?」


「だって観てないと話題に置いていかれるかもしれないじゃん……」


「小学生じゃないんだから。」


 夢乃の小さな震えが、肩に乗せた顎から、抱き付いた腕から、背中に押し付けられた胸から伝わってきて、尊は映画どころではなかった。


『ギャアァァァァァッ!!!!!』


「「!!!???」」


 勿論、テレビの音声。

 くっ付いたままの二人が同時に体をびくっとさせる。


「びっくりしたぁ……」


 夢乃はさっき以上に腕に力を入れて尊に抱き付く。

 立派に成長した二つの膨らみがそれまで以上に押し付けられる。


「向こうの映画って勢いで驚かそうとするから心臓に悪いよね……」


「そ、そうだな……」




(「こっちは背中の感触で心臓がどうにかなりそう……)」

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