転寝

 眠気に任せて体を横たえ、閉じる瞼に抵抗せず落ちていくのは何とも言えない贅沢。

 それに加えてそのまま何にも邪魔されずに自然と目が覚めるまで眠り続けるのは至高というもの。


「ん……?」


「おはよ。」


 尊の目のピントがギリギリ合う距離にあったのは夢乃の顔。

 夢乃は尊の瞼が開くのを見て柔らかい笑顔で挨拶をした。


「んぁ……?ユメ?何やってんだ?」


「タケの寝顔見てた。」


「んなもん見ても面白くないだろ。」


 尊が体を起こそうとすると、夢乃が尊の肩に手を置いて布団に押し付けるように力を加えた。


「な、何だ?」


「もうちょっと。」


「何が?」


「もう少し寝顔見ていたい。」


 傍から見たらキスでもしてるんじゃないかと思う程、尊に顔を近付ける夢乃。


(「ち、ちち近くね……?」)


 夢乃のうっとりしたような顔を間近に見ている尊は、高鳴る心音に合わせて顔が真っ赤になっていた。


「タケ、顔赤いよ?熱でもある?」


 そう言って夢乃はおでこを全開にして尊の額にくっ付けて来た。


(「マジで熱出そう……」)


「熱いね。待ってて。」


 何を勘違いしたか知らないが夢乃は尊の部屋を出ていった。




(「危なかった……けど惜しいような……」)


 残念が少し大きく感じた尊だった。

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