下校

 大学の講義は必修科目と選択科目をバランス良く取れば、割とゆっくり出来るスケジュールになるのが有難い。


「ただいま。」


 大学生が帰宅するような時間、共働きの両親が家に居るわけは無いのだがついいつもの癖で挨拶をしてしまう。

 手洗いとうがいをする為に洗面所に向かい、木製の引き戸を開けて中に入り込もうとして足が停まる。


「んぐふっ!?」


「ん?あぁタケ。おかえり。遅かったね。」


 風呂上がりのように体にタオルを巻いた夢乃が居た。

 いや、完全に風呂上がりだ。


「何でユメがうちの風呂に入ってんだよ?」


「え?ダメだった?」


「ダメではないけど……」


「だったらいいじゃん。」


 しっかり水分を含んだ艶々の黒髪と肌に付く水滴が輝いていて、尊は夢乃から目が離せなくなっていた。


「タケ?」


「えっ!?な、何?」


「いつまで見ていたいの?」


「ふぁっ!?あ!いや!……すまん……」


「別に謝る事無いじゃん。昔はよく見てたのに。」


「むむ昔と今じゃ……色々違う……だろ……」


「あちこち育ったからねぇ。」


 ニコニコと尊を見る夢乃を残し、洗面所の戸を閉めた。




(「ホント……立派に育って……」)


 網膜に残る映像を画像に出来ないものかと真剣に悩む尊だった。

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