登校

 春の陽射しは通い慣れた大学までの道を照らしている。

 平均気温は上がっていても、まだ薄手のコートくらいは持っていても不自然ではない季節。

 一週間、殆ど同じ講義を選択していた尊と夢乃は、ほぼ毎日一緒に同じ時間の登下校を繰り返す。


「なぁ、ユメ……」


「ん~?」


「何で俺はユメをおんぶしてんの?」


「楽だから。」


 ずり落ちそうになる夢乃の体を両腕で抱える尊。

 尊の首に腕を回して嬉しそうな顔で周囲の景色を眺める夢乃。


「楽なのはユメだけじゃん。」


「タケの鞄持ってるのは私。」


「随分割に合わない気もする。」


 尊の頭上でケラケラと笑いながら夢乃が尊の頭をポンポンと叩く。


「私は常にリンゴ4つ分の重さを抱えてるんだから。」


 尊は首を傾げる。


「某白い猫はリンゴ3つ分だったと思うんだけど。」


「それは全体重でしょ?私はのがリンゴ4つ分。」


 そう言って夢乃が尊の首に回した腕を締め、更に体を密着させてきた。

 尊の肩甲骨に、男の自分には考えられないような柔らかさが押し付けられている事を改めて感じさせられた。


「片方でリンゴ2つ分。」


「そうだよ。」




(「ありがとうございます……」)


 いつまでも背負い続けられそうに思った尊だった。

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