第5話 天

だめだ。まったく寝付けない。


王女様カルミアの生贄のことを聞いて、どうしても心のモヤモヤが濃霧のうむのように立ち込めている。

この気持ちは"勇者"としての偽善なのかもしれない。でも、何とかしたい。

そうだ、気を紛らわすために俺の習得したスキルやらを見てみよう。数えきれないほどあるし、思い出すためにも見るべきだろう。


攻撃魔法、炎、水、草、風、土、光、闇。いかにも異世界といったような魔法属性。殆どの魔法がこの属性に則っている。

と言っても、異世界は異世界。おとぎの話のようなものばかりだし、これら属性から外れた魔法も存在する。


例えば……そうだ、あの少女が俺にダメージを転移させたり、それこそ召喚魔法、転生魔法なんかは遼遠魔法りょうえんまほうと呼ばれ、常人には到底扱えない魔法だと言われている。それを扱えるは相当な実力者だろう。


どうせなら彼女のダメージ転移魔法を俺も習得してみようか。


考えられる魔法陣はこんなものか。習得してみるか。


よし。できた。いかにもな[ステータス]という俺特有の魔法で会得えとくしたことを確認する。覚えた魔法はこうやって目に見えるけれど、感覚的にはスポーツに近いものだ。突然出来ると言うより、慣れだ。


懐かしいな、丸一日も魔法の研究をしていた日もざらにあった。おかげで独自の魔法も沢山出来た。


お、?何だろうこの魔法。浄化じょうか魔法?


あぁ!思い出した。あの腐った肉が綺麗に無くなる魔法か。それぐらいしか使い道がなくて殆ど忘れてしまっていた。使い道は無いが今思えば不思議な魔法だ。どの属性にも当てはまらないから遼遠魔法なんだろうが、それにしては凄みがまるでない。


気を紛らわすためにも少し調べて見るか。


俺は図書館に向かい、古今の魔法に関する本を読みながらこの魔法について調べた。


なるほど、これはなかなか面白いな。


どうやらこれは古代の聖職者が主に習得していた魔法のようで、属性は天堂てんどう魔法。天国に居るとされる天使の力を使ったものらしい。俺が持っていた浄化魔法はその初歩の初歩で、概念的に「死んだ」者を天界へ送る。というものらしい。


その他の魔法も見てみたが、文献に載っていたのはどれも何処か神聖的、悪く言えば胡散うさん臭い様なものが多かった。


願いを叶えるが、願いの重さに依って代償を払う。や、奇跡を起こす。更には天使を呼び出す。等など。


何を言っているのかいまいち分からないし、魔法の能力がかなり抽象的で不思議な属性だ。


ただこれらが本物なのは確かだ。魔法の構造から見ても、効果に納得がいく様なものだから。


強い訳では無い上、習得が難しいかったのが原因か、今では完全に廃れてしまったようだ。


不思議で面白いと思う所もあった。どの天堂魔法にも転生魔法や召喚魔法と同じような構造が含まれているのだ。


もちろん効果に共通点はない。無理にでも見つけるなら、天国だとか生まれ変わるだとか、生と死に関わるという事くらい。






気が付けばもう外はとっくに暗くなっていた。初めは気を紛らわすために居たが思いの外熱中してしまった。今日はもう帰って休もう。

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