第2話 白黒映画の如く。
トンネルは白黒映画のようなコマのようなモノクロの渦を描き、出口は愈々持って見えなかった。胡蝶の夢の中でずっと、そのトンネルの中を背負ってもらった疲労さえも覚えず、ひたすらに歩き続けたと思う。刹那、ゴールテープが放たれたような、薄明りが視界に入った。
どうも、その視線の正体は廃病院の出口のようだった。野外にはそぼ降る時雨が透明な征矢となって無情な地上へと降り注いでいた。
パールホワイトのような白光と影絵のような克明に烙印を押された黒が雨礫の悲哀に満ちた風景を象っていた。下ろしてもらった私はやっと出口だ、と安心し、本能的に少年の左手を引っ張った。
「お兄ちゃん、出口だよ、あっち」
夢の中なのに私は手を引っ張られた途端、その感触や手の温もりや質感が、とてもリアルに感じた。透明な長針のよう篠突く雨が地面を言葉にならない、怒りと痛みをぶつけるような雨音も聞こえた。
廃病院の回転式のドアの中央部からは激烈な雨脚によって持たされた、真珠色の狭霧が舞っている。あまりにも現実味を帯びているから、これは果たして夢、なのだろうか、と幼い私でも底知れぬ違和感を覚えた。
無表情な少年は私に合図し、振り返り、回転式ドアとは真逆のほうの視界の先にある、闇路へと歩みを始めた。
「闇に僕の居場所がある。闇に行かなきゃ、本当の居場所はそこにある……」
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