第3話 青水無月の時候
不可逆的な夢はその一言で途切れた。目を覚ましたときは明るすぎる白い朝で、布団の中で幼い手足をぶらぶらさせながら残像が消えず、その余韻に朝を委ねていたのを今でも、覚えていた。
その不可思議な体験が俗に言う、朝方に見る夢だということさえ、まだ幼い私は理解できていなかった。
栗花落の青い五月雨が降り続ける、青水無月の時候になると、無意識のうちにその闇の夢のストーリーを思い出す。
小さかった私はその頃より大きくなってから、お父さんにその夢の内容を話してみたことがある。あの夢に出てきた少年はどこへ行ってしまったの? と私がつい、泣きじゃくるとお父さんは地域に伝わる、言い伝えを静かに教えてくれた。
――昔々に真依が住む高原では皇子さまがいたんだよ。野山を駆け回って御池の麓で暮らされていたそうな。真依はもしかしたら、夢の中であったのかもしれないな。
私もまた、自然豊かな高原の地で、秘密基地を作っては帰りが遅くなり、怒られ、それでも、長期休暇になれば、野山を駆け回ったし、その皇子さまが見たであろう、晴天であれば、霧島山の来迎図のような斜陽も毎日のように、赤く黒く音が無い、連山が大きくはっきりと見上げた。
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