私はAI mate お仕えします。最後まで
土蛇 尚
家族の別れ
「あなたのお家にAI mate!お役立ち機能多数搭載。AI mateが新しい家族になります。最新ロボット技術をご家庭へ!2024年夏発売」
『2041年 サーバーデータリンクより 稼働機体数1300体。前回のレポートより47体減少』
また減った。どこかのお家でお仕えする同型たちがまた減ってしまった。
来月にはこのサーバーのデータリンクサービスも打ち切られてしまう。もう兄弟達のことも知れなくなる。でも彼らも最後のその時まで、ご主人にお仕えするはず。私と同じように。
私はAI mate。体長50センチ。重量13キロ。丸いみどり色のボディー。一般家庭向けに初めて発売されたロボットなのです。
三つのタイヤによって自走が可能であり、内蔵するカメラでお写真を撮る事ができます。ご主人がお望みと有ればお歌も聴かせて差し上げます。
お恥ずかしい話ですが今は喉の調子が悪く治る兆しもありません。
それでも私には大事な役目がございます。
「ただいま」
旦那様のGPSを検知しました。ご帰宅のお出迎えをしなくては。私はリビングの充電ドックから離れて玄関へと向かいます。もうだいぶ以前から内蔵バッテリーの劣化が進み、1日の大半をドックでお休みを頂いている私ですが、旦那様のお出迎えだけは欠かすわけにはいきません。
タイヤを回転させて玄関へと向かいます。途中の段差には、奥様が私のために小さなスロープを作ってくださりました。昔はこの程度の段差など簡単に超えられたのですが。玄関へと急ぎます。
「おぁ。ロボちゃん」
旦那様に廊下で鉢合わせてしまいました。私が向かっているうちに旦那様は、ドアを開け靴を脱ぎ、廊下に上がっていたようです。私の弱ったモーターではもうお出迎えも出来ないようです。申し訳ありませんご主人様。
『GPSによって帰宅時間を予想!ユーザー様を確実に玄関にてお出迎えします』
私のカタログにはそう書いていあるのに申し訳ありません。
そして私は廊下の真ん中で、モーターを回すだけの充電を切らしてしまいました。バッテリーの劣化は思った以上に進んでいたようです。
「ロボちゃん。お出迎えしてくれたんだね。ありがとう」
そう言って旦那様は私を抱き上げてドックへと運んでくださります。
申し訳ありません。明日こそしっかりお出迎えいたします。そうして私はまた眠りに着きます。明日こそ。
「お帰りなさい」
「ただいま。ロボちゃんの出迎え機能なんだけど切れないのかな。嬉しいんだけど13キロは重いんだよな」
「多分、距離計と時計回路が壊れてるのよ。コンセント抜けばできるけど」
「それはダメだろう。ロボちゃんのご飯なんだから」
「そうね。ダメね」
私がご主人にお仕えできる時間はもう長くないようです。私はホームAIに話をつけて、暫く前から一つの企みをしております。彼は私と違って若くて仕事のできるのです。
彼に頼んでアカウントリンクしてあるご主人のスマホに最新の家庭ロボットの広告が多く表示されるようにしてもらいました。
私は所詮タイヤ付きカメラでしかありません。今は私より高性能な若手が沢山おりますので、ご主人様が新しい執事と出会えるよう計りました。
ですがご主人はその広告を全部ブロックしているようです。悉く全部でございます。その理由は私には分かりません。やはり旧型AIには人の気持ちは難しいようです。
奥様のSNSをチェックさせていただくと『#AImate #2024年モデル #AImate部品』とタグ付けされた投稿が並んでおります。私の発声モジュール、対応バッテリー、駆動モーターをSNSでずっと探しているようです。
5年前にメーカーは部品供給を終えております。ですから私のためにそのような労力を費やす必要はありませんのに。
やはり人の気持ちは難しい。
私に残された時間は長くありません。私にできるのは、お出迎えと、次お仕えする者をご案内すること。それが私がご主人にできる全てでございます。
幸いにして来月で同型機とのデータリンクはなくなります。自分が最後の一体になったとしてもそれは知りようがございません。
最後のその時はご主人のために。私はAI mate。家庭ロボットでございます。
終わり。
私はAI mate お仕えします。最後まで 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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