神に近づきなさい。そうすれば神も近づいて下さいます
もっともっと神様に喜んで頂きたい。洗礼を受けてからその願いが強くなった。もっと神様に近づきたい。自分にできる最善のことをしたい。
私は伝道を自分の出来るときにするだけではなく、神に誓約する形で行いたいと思った。月に五十時間の伝道者を補助開拓者と呼ぶ。そして月に七十時間の奉仕者を開拓者と呼ぶ。そうだ、私は開拓者になる!
海賊王になる!と同じノリで夫に言うと、伝道したのと同じだけ家にお金を入れろと言われた。車は使うな、伝道するなら自転車。もし借りたいなら一日千円だと要求された。負けてたまるか。私は毎月七万円を夫に渡して自転車伝道に励む。
神と共に働いていると思うと自転車のペダルも軽い。家から家を一時間ほどして、再訪問を二時間する。気がつけば週に三十人ほど定期的に再訪問していた。
家に上がらせてもらって一時間ほど勉強する人を研究生と呼ぶ。教える私は司会者と呼ばれる。私は研究生を平均して七人抱えていた。毎週、毎週、三十人から四十人の家を訪問する。自転車で効率よく周るため、予め曜日と時間を約束して走る。走る。走る。ほとんどの人が神様のことを知りたい人である。
「受けるより与える方が幸福」「自分にして欲しいことを人にもしなさい」
この聖書の言葉を当てはめてくれ、雨の日、風の強い日は私の家に来てくれた。
一人でも多くの人に伝えなきゃ、ハルマゲドンで滅ぼされてしまう。私は自分の睡眠時間を削り、早く進歩出来るように一人一人に合った資料を準備した。一人一人悩み事が違う。抱えてる問題が違う。知りたいことが違う。
どの聖書の言葉で励まそうか考える。教団からは、私たち伝道者は神の言葉を運ぶ郵便屋さんに徹するように教えられた。教えているのは神様なので自分のアドバイス、考えを話すなということである。
研究生の一人が集まりにも出席するようになり、自分も神に献身したいと願いを表すようになった。ご主人様の反対の中、家中にある偶像を処分したという。さらに私から寄付して欲しいと帯のついたままの現金を渡された。基本的に寄付は匿名である。誰がいくら入れたのか分からないように箱がある。
渡されたお金は百万円。一枚一枚入れていたらバレてしまうので、私は名前は出さずに預かったお金だと会計担当の仲間に手渡した。その研究生は子供に相続させるくらいなら、この家と土地を教団に寄付したいとも言った。
私は思う。若い時にはお金がないので自分の体力と時間を神に捧げる。反対に年配の方は体力が無いので、自分の資産を神様に捧げたくなるのだと。そして何人かの年配者が自分の死後、財産を教団に寄贈すると遺書を遺すことを知った。
辛い別れも経験した。血液の病気を患った年配の研究生。神が血を避けるよう教えておられると知り、自分の信仰を貫くために輸血を断る。輸血すればもう少し長生き出来たのかもしれない。けれど彼女は輸血拒否を貫く。
最期のお別れの言葉は「姉妹(私のこと)、楽園で会いましょう」だった。
開拓者として十一年間伝道を頑張った私。ついに身体を壊した。子宮筋腫によるひどい貧血であった。開拓者をやめ自宅療養しながら、研究だけ行くことを余儀なくされる。落胆の日々。それでも月五十時間はやりたかったので、五万円を家に入れるためパートは辞めない選択をした。今思えば辞めなくてよかった。
この自宅療養中、なんと私は色々なことを知ってしまうのである。ずっと教団から発行されていない出版物やネットの情報を見るなと言われてきたが、目に入ってしまったのである。
この教団に関するトピックスが目に入った。『オーストラリアでは児童性的虐待の申し立てがあった加害者とされる人が1006人いたことを報告した』
不道徳のない組織。神に用いられる唯一の地上の組織だと信じていた私。本当だろうか? 調べれば調べるほど、恐ろしいくらいに出てくる問題の数々。
私たち信者には背教者の嘘だという教団トップのビデオが出た。ここでそうだと流せばよかったのだが、気になるととことん調べる性格である。私はさらにネット情報を読み漁った。
教団の出版物に隠し絵があった。仲間信者に伝えるために誰かが描いたものだろう。この組織に蔓延る不道徳を教えるための隠し絵。男性器が描かれていた。
そのあとも、なぜ誕生日を祝わないのか。高等教育を受けさせないのか、ペットを飼うことを勧めないのか。信者にはあるもので満足するように教えておきながら、教団トップは金の指輪や高級時計をはめている。入手経路は。
初代会長に愛人がいたこと、アルコール中毒のトップがいること。本当のことを伝えようとしたトップが排斥されたこと。色々な情報が出てきた。
大人はみんな汚い。不道徳を犯し、貪欲で、正義なんてない。私はこの事実には動じなかった。人間なんてそんなもの。神が物事を正されると信じていたから。痛い。ヤバイ。
本当の苦しみはこのあとに知った情報を得てからだった。これは二千十五年の出来事である。
次回「明日のことは明日考えよう」
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます