人が人を支配してこれに害を及ぼした
「クモ膜下出血の疑いで親族が集まるように言われています。学校。遅刻します」
早朝、クラス担任に電話をすると、先生は焦りながら誰がと聞いてくれた。母親だと答えると今日は休みなさいという。クモ膜下出血って何か知らなかったもの。最悪、母親が亡くなったとしても邪魔する人間がいなくなるくらいにしか考えていなかった。思考が麻痺していたのだ。精密検査の結果、クモ膜下出血ではなかった。
母親は体裁を気にする人だった。高校卒業後は短大に行くか、就職するなら銀行にしなさいとすすめてきた。私は早く働きお金を貯めて家を出る事しか考えていなかった。父親から離れたかったのである。早く家を出ないと集会に行けない。集会に行かないと信者になれないと気ばかり焦っていた。
しかし、そんな計画や目標は脆くも崩れ去る。自動車学校に通うようになり、週に一度の聖書研究の時間が確保できなくなったのである。さらに就職先も地元のホテルに決まり、不規則な勤務時間で研究の約束を守ることが出来なくなった。仕事を覚えることで精一杯になり、神様のことが二の次になる。
この当時、半年間研究しても行動に移さない者は信仰がないとみなされて、研究を打ち切られた。私も打ち切られた。それでも神様はいつも私を守ってくれると信じていた。本当に単純で幼い思考である。しかし、このことがかえって自分の身を守る術となるが同時に自分を追い込んでいく。
私は地元の商業高校を卒業したので、ホテル勤務といっても経理課所属だった。一年間はホテル内のレストランのキャッシャー(受付andレジ)でありお金の管理をする仕事をした。来店客、宿泊客を席に案内して会計をする。
当時はバブル全盛期。レストランの個室利用客は個人でも数万円から数十万円である。企業の忘年会や新年会などでは百万円越えは当たり前。今のようにキャッシュレスではない。売り上げが多い日は数百万となる。金庫に預けるまで神経を使う。
ホテルのVIP客は芸能人、著名人、スポーツ選手が多く、密会場所として利用する時は事前に黒服マネージャーから口外禁止令が出る。恋人や愛人を呼び寄せるスポーツ選手の多さに辟易したが、それよりもダメージだったのが、手取り早くホテルスタッフと関係を持つことだ。同期の子が……。
全国から反社のトップがレストラン個室に集まり内密の話し合いが行われる。この件も黒服マネージャーから口外禁止令を言い渡された。神経がすり減った。
ホテル勤務は不規則であり、夜十一時退社、翌朝六時出勤の日は従業員も宿泊することができた。私は二つ上の女性先輩と宿泊した。シャワーを浴びてベッドの入った時にノックがした。笑顔でドアを開ける先輩。何? 誰?
はい来たー! 先輩曰くストレス解消のお遊びだそう。二人の男性社員が乱入。乱入からのダイブ。隣のベッドでおっ始める先輩と男性社員。〇〇ちゃんも楽しみなよって言われた。はい分かりましたって言えたら楽だったろうな、私。
この時、お付き合いしていた彼氏がいた。もちろんそういう雰囲気になった事もある。しかし、私は結婚してからじゃなきゃダメだと言い続け、彼氏も守ってくれて半年付き合っても何もなかった。淫行から逃げ去りなさい!を守ったのだよ。
「……やってもいいけど、私は必ずこの足であなたの奥さんと、あなたの直属の上司と、警察に行きます!」と叫んだ。話が違うと怒りながら出ていく男性社員。
先輩も唖然。「〇〇ちゃんって真面目なんだね」と言いながら乱れた浴衣を直す。私はとんでもないところに就職したと後悔した。けど何もなかった。未遂だった。ああ、神様が守ってくれた。私は本気でそう思い感謝した。
キャッシャーの仕事を一年ほどして、経理課の九時十八時勤務になる。ここではさらに神経を使う。事務仕事だけでなく、なぜか出納に配属されたからだ。経理部長の横領に気づいてしまった。(細かいことは割愛。他エッセイで書いてます)
───大人は汚い。
今なら笑って言えることも、二十歳の私は傷ついた。どこもかしこも不道徳で、貪欲で、正義なんてないじゃないか! 人が人を支配し、害しか及ぼさない世界。この世の中、いい人間であろうとすると苦しむんだ。
そんな頃、彼氏と喧嘩する。「お前、楽しんだんだってな。お前が誘ったんじゃないのか?」噂話を信じて私のことを信じてくれなかったのだよ。仕方ない。仕方ないから彼氏が提案した同棲をした。すぐには結婚ができないけど一緒に暮らしたい。三十までには結婚するという言葉を信じて。
はい、私が馬鹿でした。お金にルーズな人だった。ギャンブル好きな人だった。デート場所もパチンコ屋になる。私も暇だからスロットをやってみる。悲しいかな。パチスロやってると嫌なこと全て忘れられ、ハマった。
同棲して二年目、赤ちゃんができた。愛する存在が欲しくて欲しくて作ってしまったのだ。パチスロ依存症から抜け出すこともできる。嬉しかった。が流産。
彼氏はほくそ笑み、彼の母親からは「子供も産めないような人、うちの嫁にはいりません」と言われた。もう限界だ、別れよう。同棲を解消して実家に戻る。貯金がなかったのだ。親に頭を下げて実家に住まわせて貰う二十二才。
母親に今まであった辛いことを全て話した。レイプ未遂、横領に加担したくなくて会社を辞めたこと。相手の母親の辛辣な言葉。泣きながら話した。
───あんたなんか生まなきゃよかった。
はい、来ましたよ、来た。しかしこの時はニュアンスが違った。こんな辛い思いをさせるくらいなら、生まなきゃよかったって母親も泣いてた。
『真実の愛が欲しいとリスカして 答え得られずオーバードーズ』
この頃の生活を短歌にしたものである。私がこんな状態になったのは自業自得。自分が悪いものを蒔いたので悪いものを刈り取っている。神様の言うとおりに生きなかったせいだ。自分は弱い。弱い。愚かだ。人生やり直したい。
次回「我が子よ、賢くあって私の心を喜ばせよ! 私を嘲弄している者に私が返答するためである」
乞うご期待(笑)
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