第108話 その証
「……もしかして、いつか本物が現れるって分かっていた? なんとなくの時期も知っていたんじゃないの?」
「……そうだと言ったら、俺を責めるか?」
隠していられない。でも隠していたのは、この国のためにならない重要な事実だった。話すべきだったと、今さらながらに後悔している。
「何か理由があったのでしょう。責めはしません」
「本物っていうのは、この前神殿に連れてきた、ひかりって子供か?」
頭がいいのも考えものだ。少ない情報で、すぐに結論を出す。俺の態度が分かりやすかったのかもしれないが、納得がいかない。
「……そうだ。だから、この前力を覚醒させようとした。能力は俺以上に高い。覚醒すれば、この国のためになるだろう?」
「そのせいで聖様が亡くなったら、何も解決しません。一言、相談してくれれば良かった。……いえ、過ぎたことは話しても仕方ないですね。これから、もっと頼ってもらえるようになればいいだけですから。そうでしょう?」
あの時のことは水に流す。そう取り決めがあったから、責めはすぐに止まった。でも胸がチクチクと痛む。効果は抜群だった。
「俺は偽者の光なのにも関わらず、本物が現れたことで放置されたのを恨んだ。そして、害をなす計画を立てた。襲撃は失敗に終わったけど、逮捕されて、牢屋に入って死ぬ。そんな未来が待っていた」
それなら、俺も俺の事情を全て話そう。どうして、ずっと怖がっていたのか。その理由を。
話の内容を予想していなかったようで、さすがに驚いた顔をしている。
「……私達の存在は怖かったでしょう。あなたが死ぬ原因となったのは私ですか? それとも、他の人ですか? ……剣持さん以外の全員?」
「……まもる以外の全員だ」
ここまで来たら全て話すと決めた。隠し事をされたくないだろう。
そういうわけで、正直に話した。でも、剣持以外の人にとっては、あまり楽しくない内容だ。悲しげな表情を浮かべている。
「最初は怖かった。今は優しくしてもらえても、本物が現れたら捨てられる。俺の運命を変えることなんで出来ない。どんなに大丈夫だと言い聞かせても無理だった」
話していて、涙がこぼれた。あの時、誰も信じられずに辛かった。全員が敵だと思っていた。
「でも、もう違う。みんなに命を預けられるぐらい、信頼している。そもそも怖かったら、パートナーになるのは全力で拒否していた。そこまで流れやすくないから」
「それなら、いい」
良いと言っているが、まだその痛みを癒せていない。言葉だけでなく、行動に移さなくては。
俺はポケットの中に入れてあった、箱を取り出す。このタイミングで出来たのは、きっと偶然では無い。
どこかで神様が見ている。俺の味方をしてくれている。ありえない話かもしれないが、信じてみたい気持ちがあった。
これも、きっと喜んでくれるはずだ。
そう確信して、俺は箱の蓋を開ける。
「これを、みんなにもらってほしい」
「……これは?」
「アクセサリー、ですよね?」
隣に座る神路と剣持が、箱の中身を見て首を傾げる。つけている人を見たことがなかったから、もしかしたらとは思っていたけど、なじみがないらしい。
「どこにつけるものなんだ?」
「シンプルなデザインだね」
神威嶽と神々廻が席を立ち、こちらに近づいてきて覗き込む。まじまじと見ても分からないらしく、文化の違いを感じさせられた。
「……これは、元いた世界でパートナーとペアでつけるものだ。結婚している証みたいな感じだな」
息を飲む音が、複数聞こえた。それほど重要な意味を持っているとは、思いもしなかったらしい。俺をまじまじと見つめる視線を感じた。
「シンプルなデザインだからこそ、ずっとつけていられる。これを見れば、いつでも相手のことを思い出せるだろ。離れていても繋がっている」
まず一つ、手に取った。そして、神路の左手の薬指にはめる。
「俺を初めて見つけてくれて、ありがとう」
また一つ手に取り、今度は剣持の薬指にはめる。
「初めての味方になってくれて、ありがとう」
次は神威嶽の薬指に。
「俺を生かしてくれて、ありがとう」
最後は神々廻の薬指だ。
「陰ながら守ってくれて、ありがとう」
光に照らされて、輝くシルバーの指輪を、みんなが眩しそうに眺めた。幸せを噛みしめているような、そんな表情をしていた。
「……俺にも、はめてくれるか?」
ケースの中には、まだ一つ残っている。俺の分だ。
左手を差し出せば、四人が顔を見合わせる。視線だけでどういう取り決めがなされたか不明だが、神路がケースから出した。
「あなたの存在で救われました」
「聖様を一生お守りいたします」
「ずっと傍にいてくれ」
「君と出会えて良かった」
それぞれの言葉だけでも胸がいっぱいになったのに、ゆっくりとはめられた指輪の存在で、涙腺が崩壊した。
「みんな……大好きだ」
嬉し涙を流しながら、愛の言葉を口にする。
みんなの薬指にある指輪は、小さいはずなのにとても大きく見えた。俺達を繋ぐ、大事な証だ。
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