第107話 うちあけばなし⑤
自分の弱点を、悩みを、みんな話してくれた。
それなのに俺は、一番の秘密を隠したままだ。それは平等では無い。パートナーになるのに、話さなくていいのだろうかか。ずっと考えていた。
良くない、話すべきだ。そう結論を出した頃に、話があると呼び出された。
これは俺の考えを読み取られたな。部屋に入って全員が揃っているのを見て、そんなに分かりやすかったかと苦笑した。
「……勢揃いなんて珍しいな」
軽口が出てしまったのは、緊張をほぐすためだった。なんてことのないふうを装わないと、この場から逃げ出したくなってしまう。
話すと決めたはずなのに、いざ場を整えられると怯む。
「全員いた方がいいと思ったからな。聖のためなら、予定も合わせる」
俺の緊張を感じ取ったようで、神威嶽も軽口で返してきた。神々廻はヒラヒラと手を振っていて、重苦しい雰囲気ではない。
円形のテーブルに、神路、神威嶽、神々廻、剣持という並びで座っている。俺は、空いていた神路と剣持の間に腰かけた。
右隣から、剣持が手を握ってくれる。そちらを見れば、力強く頷いてくれた。大丈夫だと、そう言っているみたいだ。
「聖さんの話を聞くために、この場を設けました。……どうやら、ここにいる全員がそれぞれ相談をしたようですからね」
「驚いたよ。みんな悩みがあったなんて。しかも同じ時期に、相談をするのはタイミングが良すぎるでしょ」
神路と神々廻が、顔を見合わせて笑う。その話は秘密にしていると思ったから、言っていることに驚く。俺がいなくても仲が良くなっているらしい。いいことだ。
「聖様のおかげで救われました。だから今度は、俺達が聖様を救う番です」
みんなの顔を見て、話をしようと決めた。話をしても平気だと、俺の選んだパートナーはどんなことでも受け止めてくれる、広い器があるはずだ。
「……みんなに聞いてもらいたい話がある」
まずは、単刀直入に言おう。
「俺は、本物の聖ではない。中身は別の人間なんだ」
ありえないと切り捨てられるか。頭がおかしくなったと思われるか。騙されたとなじられるか。
そのどれもがありえる反応だったので、俺は傷つかないように自分を強く持とうと、背筋を伸ばした。
「ああ、それなら知っていた」
「……え?」
悪い反応ではないかもしれないと期待していたが、なんてことないように知っていると言われて思考が停止した。
嘘だろう。バレていたのか。
いつ? どこで? 全く見当もつかなくて、固まったまま混乱する。
神威嶽以外の顔を見れば、驚いた様子がなかった。つまり、みんなも知っていたわけだ。
「……怒らないのか?」
「怒る? なんで?」
「だって、違う人間なのに黙っていた。騙していたのと同じだろ?」
怯えながら言えば、神威嶽が大きなため息を吐いた。それに体が反応してしまう。
「そうそう簡単に言える話でもないし、俺達も半信半疑だった。言いたくないのなら、こちらは静かに見守っているつもりだった」
「……いつから察していた?」
「おそらく、入れ替わってからすぐのことです」
「そんなに前から」
最初からボロが出ていたと、そう言われたのと同じだ。俺としては信じられない。上手く演じていたつもりだったのだが。
「突然人が変わったようになれば、何かあったのかと疑います。改心したというより、別人に入れ替わったと言われた方が納得できる状態だったので。もしやと思っていました」
「性格が悪く変わったのなら考えものだけど、逆に面白くなったからね。その方が平和じゃないかって、そういう結論が出た感じかな」
「……俺は話に聞いていた様子と違っていたので、人々が悪い噂を流したのだと初めは思っておりましたが、この世界のことをあまり詳しくない様子から、もしかしたら推測しました」
脱力、その言葉がふさわしいぐらいに、全身から力が抜けた。後ろめたいと思っていた時間はなんだったのか。もっと早く打ち明けていれば、心も軽くなったのに。そう考えたところで、もう終わった話か。
「……昔のことは覚えていない。どんな人間で、どんな人生を送っていたのかも。ただ、俺が成り代わった聖が悲惨な結末を迎えるのは知っていた。だから、死にたくない。その気持ちだけで行動していたんだ」
「それで、初めは私達から距離を置こうとしていたのですか?」
そこまでバレていたのか。嘘をついても無駄なようなので、頷いた。
「光に固執しなければ、俺は死なない可能性が高くなったからな。まもると一緒に、どこか誰も知らない場所に行けば、すぐに偽者のことなんて忘れてくれると思った」
俺が別の人間だとバレているなら、とっくに代理だともバレているはずだ。現に驚いた様子は無い。
「でも……段々と、ここで生きたいと。みんなと生涯を共にしたいと、そんな欲が出てくるようになったんだ。偽者だとしても、傍にいられる理由を見つければいいんだって」
誰も何も言わない。俺の言葉を待っている。
緊張で、握られていない方の手をポケットの中に入れる。そうすれば、少しだけ気が楽になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます