第104話 うちあけばなし②




 何があろうと、神威嶽は神威嶽だ。

 その気持ちが伝わったのか、最後にはとても晴れ晴れとした顔をしていた。吹っ切れたようで何よりだ。

 俺がしたのは話を聞いただけだ。でも、それが良かったらしい。力になれた気はしないけど、こういう時もある。


 しばらくは、こんなことは起こらないだろう。人の秘密を知るなんて、そうそうあることではない。


 ……そう思っていたのだが。





「話って、なんだ?」


 話があると言われた時点で、もしかしたらという気はあった。でもまさか違うだろうと考えていたのに、部屋で待ち構えていた表情を見て、重要な話だと分かった。


「突然呼び出して、申し訳ありません」


「いや、別に。暇な時間に設定してくれたから、謝らなくても平気だ」


 話す前から深く頭を下げてくるので、とにかく謝罪は不要だと伝える。こんな始まり方をしたら、変に気を遣ってしまいそうだ。

 肩の力を抜いて話をしたいが、そう言っても無理だろうか。


 神威嶽の時と同じく、私室に呼び出されたので、とりあえず隣に座る。近い距離に驚いていたが、移動することは無かった。

 この近さを許されている。胸がくすぐったい気持ちになった。


「……もしかして、俺に大事なことを話そうとしているのか?」


「……はい。よく分かりましたね」


 最近、同じ状況があったからとは言わず、話しやすいように笑いかける。

 そうすれば、神路は少しだけ肩の力を抜いた。リラックスしてくれたみたいだ。


「どんな内容でも、俺が嫌いになることは無いから。怖がらずに話してくれると嬉しい」


 神威嶽での経験があるので、安心させるための言葉はいくらでも出る。でも、紛うことなき本心だった。嘘は一つも無かった。

 そういうのが分かる神路が、心を閉ざさないから、気持ちがきちんと伝わっていた。


「……うやむやになってしまい、まだ出来ない話がありました。私の能力について、話をさせてください」


 まさか、神路まで実は能力がありませんでしたとは言わないよな。いや、それはないか。代償があったのだから、能力は絶対にあるはず。

 別の言いづらい内容。どんなことだろう。考えても時間の無駄だから、話を待つ。


「私の能力は……人の嘘を見破るものです」


「嘘を見破る、か。……もしかして、俺にも試したことがあるのか?」


 きっと、自覚症状は無さそうだ。気づかない間に、試されていた可能性はある。責めているわけでなく、ただ確認したかっただけだ。

 でも、神路は怒られたみたいに唇を噛む。微かに視線までそらした。


「一度、しようと……」


「したのか。いつだ」


「あなたが何かを企んでいると、疑った時です。代償で乗っ取られてしまい、叩かれ元に戻してもらったことがあったでしょう」


「ああ、あの時か」


 初めて、俺の持つ力が判明した時。そう言えば、どうして代償があったのか不思議に思うべきだった。能力を使ったから、そんな簡単な考えにもいたらなかった。

 能力や代償の情報がなかった頃だから、いたらなくても仕方ないか。


「神殿の最高責任者になったのも、この能力を活用したおかげです。誰が敵か味方か、疑って生きていました。ただの私だったら無理だったでしょう」


 神威嶽とは違い、神路は自己評価が低いタイプらしい。能力がなければ、ここまで来られなかったと。自分はそれ以外にないと。そう言っているのだ。


「自身には魅力がないと?」


「容姿は整っている方とは思いますが、それだけで人は従わないでしょう。上手く立ち回ったおかげです」


 そこまで分かっていて、どうして変な方向に着地してしまったのか。不器用なところを見て、俺の胸に溢れたのは愛おしさだった。


「俺がパートナーに選んだ人を、そんなに悪く言うな。それとも、俺に見る目がないって言っているのか?」


 どうすれば、自身の凄さを認めてくれるのか。俺に甘いことを考慮して、そこに絡めてみる。俺を否定できないようで、言葉に詰まった。


「俺が選んだ人は、格好いいだけでなく、賢くて、弱い立場の人に手を差し伸べる優しさもあって、俺のことをいつも気にかけてくれて、能力が無かったとしても好きになったよ」


 神威嶽の時とは違い、俺がその体に寄りかかった。ビクともしない安心感に、口元を緩める。


「……私がただの一般人だったとしてもですか?」


「そうだな。出会うのが難しかったかもしれないから、今の立場で良かったけど……巡り会っていれば、パートナーになっていたんじゃないか?」


 実際は無理だった可能性はあるが、想像でなら何でも言える。神路も野暮なことは言わず、嬉しそうに微笑んだ。


「聖さんと出会えたことが、私の人生で一番の幸福です」


「大げさだな」


「いえ、大げさではなく、こんな幸せな気持ちになれると思っていませんでした」


「幸せならば、それで良かった。……俺も幸せだ。これからもずっと」


 嘘を見抜ける能力を使えても、今は意味がなかったはずだ。本当のことを言っているとしか、神路には分からなかっただろう。

 つまりは、そういうことだ。





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