第102話 今後の相談





「……本当に、ごめんなさい」


 満足するまでリアさんに抱きつき、泣き終わると、パンパンに腫れた目をなんとか開けて心の底から謝罪を言う。

 何が悪かったのか、ちゃんと分かっている。怒られたのも仕方ないと。だから反省していた。


「もう、こんなことはしないと約束する。……どれだけ馬鹿なことをしたのか、ちゃんと分かったから」


 反省が伝わったようで、みんなの怒りが最初よりは小さくなっている。でも、完全に許してくれたわけではない。


「……ひかりさんも。勝手に能力を開花させようとして申し訳ありません。きちんと話をしてからやるべきだったと、反省しています」


 いくら力があったとしても、本人が望んでいなければ使えない。みんなのためだったのに、相手のことを考えていなかった。

 主人公だから望んでいるはず。それは、勝手な決めつけだ。


「……僕に力が隠されているなら、人々を救うために使いたいので、開花させてもらうのに異論はありません。そうすれば、光様のお役に立てるのでしょう?」


 巻き込まれたのに、気遣いの言葉をかけてくれる。俺が悪いでのはないと、そう言ってくれる。


「家族を助けてくれた恩返しをしたいです。……僕も傍に仕えさせてくれませんか?」


 いきなり手を握られ、どこか断らせない雰囲気で迫ってくる。無理に事を進めようとした手前、嫌だとは言いづらい。

 それに主人公が近くにいれば、この先どんな困難が待ち受けていたとしても、大丈夫だという安心感がある。


 総合的に考えて受け入れるべきだ。

 リアさんと英人さんの許可を得られてからと、とりあえず条件つきで頷こうとした。

 でもその前に、神路が割り込んでくる。


「神殿はどなたでも受け入れます。そうですね……まずは見習いとしてきてください。光様より能力が高い可能性があったとしても、今は全く使いこなせそうにないですから。神殿で訓練しないと、恐らくは発揮できないまま終わるでしょう」


 どうやら、俺は力の扉を開けただけで、まだ覚醒したわけではないらしい。すぐに最強になると思っていたのだが、おそらく本来のきっかけとは違うからだろうか。


「確かに、自分の中に今まで無かったものを感じます。それをまだ使えそうにないのも、分かります。僕は強くなりたい。ぜひ、神殿で訓練させてください」


 その顔は、決意に満ちていた。熱意を持っている人に対して、すげない態度はとらない。


「お二人は、同意していただけますか?」


 ひかりの気持ちは分かったので、保護者に確認をとる。まだ未成年のため、許可は絶対に必要だった。


「この子がしたいと言うなら、応援するのが親の役目です。どうか、よろしくお願いします」


「お願いします。遠慮なくしごいてください」


 子供の意思を尊重して、二人は神路に頭を下げた。つまり主人公はこれから、神殿預かりになる。見習いだとしても、丁重に扱わなくては。


 俺はそう考えていたのだが、どうやら考えが違うらしい。神路はにっこりと、神職者らしい笑みを浮かべた。


「それでは、まず光様から手を離しましょうか。本来、見習いは触れるどころか、こんなに近くで会うことも出来ないお方ですよ」


「お、おい」


 繋いでいた手をべりっと剥がされて、さらには忠告まがいの言葉をかけているので、やりすぎだとたしなめようとした。


「光様が嫌がっていなければ平気ですよね。……駄目ですか?」


 うるうるとした目が、こちらに向けられた。年下力が高い。無下には出来ず、手を伸ばそうとすると、横からがっちりと掴まれて阻止された。

 そして手の行先は、剣持の頭へと変えられる。


「どうした?」


 掴まれたのは驚いたけど、そのまま撫でれば、剣持が目を細めた。


「……撫でてもらいたかったので、嫌でしたか?」


「嫌じゃないよ」


 強引な行動に出ておいて、不安そうな顔をするから、安心させる以外になかった。主人公に感じたのとは違う、愛おしいという気持ちが溢れでる。


「……あの、つかぬことをお伺いしますが……」


 聞きづらそうな雰囲気を出しながら、リアさんが俺達のことを見ていた。その様子から、何が聞きたいのか何となく予想ができた。


「はい。まだ正式に公表はしていませんが、この四人とはパートナー関係を結ぶ予定です」


 こうして人に話すのは初めてだ。言っていて、くすぐったい気持ちになる。自然と、微笑んでしまう。


「そうだったのですね。おめでとうございます。皆様を見ていて、とてもいい関係だと思いました。パートナーだと聞いて納得したぐらいです」


「……本当ですか? まだ慣れていないので、どこか不安だったのですが……ありがとうございます」


 そう言ってもらえると、とても嬉しくてたまらない。照れつつお礼を言えば、色々なところから腕が伸びてきた。四人が強く抱きしめてきて、変な声が出てしまった。


「……絶対に、負けないですからっ」


 口をへの字に曲げて、納得いってなさそうなひかりが、よく分からない宣言をしてきた。とりあえず頷いたが、抱きしめる力が強まったので、たぶん間違えたのだろう。





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