第101話 俺の本心






 どうして、こんなことに。

 圧迫面接のように囲まれながら、俺はとりあえず自分の手を見た。他に見るものがないからだ。みんなの顔が見られない。


 リアさん達も俺に対して怒っていた。

 それも当然だ。大事な子供を、危険にさらしたように感じただろう。俺が何をしたのか、神威嶽達とは違って分かっていないから。


「ごめんなさい……」


「それは、何に対して謝っているのですか?」


 俺の良心を攻撃するように、剣持を主導として尋問を行うらしい。その人選は正解だ。俺は後ろめたさで、上手くごまかすことが出来ない。


「ただ、祝福を捧げていただけだ。……少しやり方を間違えたのを、悪いと思っている」


 本当の中に、少しの嘘を混ぜる。全部が嘘では無いから、罪悪感がその分減る。


「……やり方を間違えた? それでごまかせると考えているのなら、随分と馬鹿にされていますね」


 下手な言い訳は通用しなかった。もう諦めるしかない。でも、全ては認めない。


「分かった。正直に話す。ひかりさんから、力の波動を感じた。だから、その力を呼び覚まそうと試したんだ」


「本当ですか?」


「ああ。俺以上の力を秘めている可能性が高い。そのままにしておくのは、もったいない人材だろう。俺がしたことは間違っているか?」


「それは……」


 剣持は言い返せずに、黙ってしまった。俺のやったことは間違いとは言えない。

 よし、正当性を主張できた。そう考えて、話を終わらせようとした。


「大間違いに決まっているよね」


 でも、見逃してもらえなかった。神々廻が冷めた目で、バッサリと切り捨ててくる。


「自分が死ぬ可能性も、考慮に入れていたでしょ。そして、死んでもいいと思ってた。違う?」


「ち、ちが」


「わないよね。自分より能力が高い人が現れれば、どうなっても構わないと思っていた? 死んで、逃げるつもりだった?」


「それは違うっ」


「それなら、どうしてあんな嬉しそうな顔をしていたの。意識を失いかけているのに、怖がりもせずに逆に安心した表情になった。どう考えても、おかしいよね」


「……力を覚醒させられたと、そう思って喜んだ。深い意味はない」


 我ながら酷い言いわけだ。誰も信じていない。


「……欠陥がある光より、完璧な方が誰だって嬉しいだろ?」


 プレッシャーに耐えきれず、本音がこぼれた。元々代理だと知っている神路や神々廻は、同調してくれると思ったが、そうはならなかった。


「それに同意するとお思いですか? もしそうだとしたら、私達を見くびっています。信用していないと言っているのと、変わりありません」


 どうして、こうも上手くできないのだろう。上手く出来ないせいで、こんなにも悲しませてしまっている。


「……ごめん」


 もうただ謝る以外になくて、謝罪を繰り返していると、傍観していた英人さんが口を開いた。


「自己完結して行動するのは直した方がいい。ただ、光様の気持ちも否定はできない」


 寡黙な人だと思っていたが、低く落ち着いた話し方は、聞いていて心地が良かった。


「おそらくだが、息子のひかりが力を持てば、あなた方の負担も減ると考えたのではないか。たくさんの重圧がある中で、一人でも多く分け合える人がほしかった。背負い込みすぎたら、いつか潰れてしまうから」


 その言葉が、俺の中で腑に落ちた。自分でも気づいていなかった心の内を、説明してくれた。そう感じた。


 ほろりと、瞳から涙が出る。そこから一気に崩れ落ちて、もうとめどなくあふれた。

 ああ、俺は一人で死ぬのも怖かったけど、みんなが傷つくのも嫌だった。一人だけで守れる自信が無いから、命をかけてでも主人公を覚醒させたかった。


「俺は……みんなが、幸せになってほしいっ。理想でしかないと言われてもっ、それでもっ……誰にも傷ついてほしくないんだ」


 顔を手で覆い、周りから自分を隠した。泣きすぎて辛い。さらけ出すのも恥ずかしくて、ここから消えてしまいたかった。

 視界を暗くすれば、少しだけ落ち着いてくる。それでも指の隙間から、涙がこぼれた。


「……俺は、どうしてもみんなを優先する。それを、止められない。悲しませると分かっていても……」


 誰かが、俺を抱きしめる。その優しい香りは、これまで嗅いだことの無いものだった。


「もっと自分を大事にしなさい。あなたが死んだら、傷ついたら、ここにいる全員が一生立ち直れなくなる。もう、あなた一人の人生じゃない。助けを望むなら、いつでも力になります。だから、どうか自分だけを犠牲にしないで」


 優しく背中をさすられ、慈しまれる。もう覚えていない、いるかも分からない母親の存在を感じさせた。

 リアさんが親である、主人公が羨ましくなった。今だけは子供の気分に浸りたくて、ゆっくりと顔を覆っていた手を、背中に回す。


「今まで、一人でよく頑張ったね。辛かったね。でも、もう大丈夫。あなたは一人じゃないから」


 俺の腕は拒否されることなく、むしろあやすように一定のリズムで叩かれた。

 もう離れたくない。そう思ってしまうぐらい、リアさんの優しさには中毒性があった。




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