第100話 主人公との再会






「セイさんっ!」


 扉を開けてすぐに俺に気がついた主人公は、こちらに飛びつく勢いで走ってきた。衝撃を覚悟したが、減速して痛くない強さで抱きついてくる。

 思っていたよりも懐かれていて、心配をかけたらしい。涙ながらに抱きつかれたら、申し訳なさで胸が痛くなってくる。


「ひかりさん、お久しぶりです」


 年下だからか、まるで弟のようだ。

 安心させるために抱きつく背中をさすっていると、突然顔を上げたので驚いて肩が跳ねた。


「どうして、光様だってことを教えてくれなかったのですか?」


「えっと、それは……」


 答えに詰まっていると、助け舟を出すようにリアさんが間に入ってくれる。


「すみません。ずっと光様に憧れていたから、教えてもらえなかったのがショックだったみたいで。こら、困らせないの。抱きつくのも止めなさい。みっともないでしょう」


「でも……」


「でも、じゃない。ほら、子供のように駄々をこねないで、こちらに来なさい」


「はい……」


 リアさんに怒られて、名残惜しげにしながら、ようやく俺から離れてくれる。捨てられた子犬みたいな目を向けてくるので、俺の心はチクチクと刺されていた。


 ひかりは、やはり可愛い。

 主人公らしくキラキラとして、一緒にいるだけで心が弾む。目がそらせなくなる何かを持っていた。


 みんな、どう思っているのだろう。

 もしかしたら、目を奪われているのかもしれない。俺を好きな気持ちが小さくなって、ひかりに夢中になっている。

 そんな気がしてきた。


「ねえ、光様。会えて、とても光栄です。また会えるとは思ってみませんでした」


「ずっとお礼を言いたかったので、こうして会いに来るのは当然です。突然いなくなって驚かせて、身分を偽っていてごめんなさい。あなたと一緒にいる時間は、とても楽しかったから、このまま別れるのは辛かった」


「そう言ってもらえると嬉しいです。光様は憧れで、もう胸がいっぱいで、頭が混乱しています」


 ニコニコと笑いながら話しているひかりは、とても可愛い。胸が痛くなりながらも、話していて楽しかった。


「一度、手を触れてもいいですか?」


「え、はい。いいですよ」


 戸惑っているが、素直に手を差し出してくれた。俺は優しく手を取り、隅々まで触れてから握る。

 そして、祈りを捧げた。


 こんなことをするべきではない。自分を追い詰めるだけだ。分かっていたけど、止められなかった。


 ひかりの中に眠っている能力を、呼び覚ます。俺以上の強さを、人々に望まれている力を、そのままにはしておけない。自分が助かりたいというだけで、眠られておくのは駄目だ。


 本物が現れれば、俺はどうなるだろうか。少しは力を持っているから、利用価値があると思われればいいけど。

 でも、本物の前には霞んでしまう。


 自嘲して笑う。どうなるかは、起こってからではないと分からない。

 今までで一番、強く願った。全ての力を注ぎ込む。そうすれば、俺とひかりの周りを眩い光が包み込んだ。


 俺の念が強いからか、目がくらみそうなほどの明るさだった。この光が、主人公に力を与える。そう思った。


 どんどん光が小さくなっていく。力が抜けて、手を握っていられなくなった。俺の中にあった力が、きっと移動したのだ。

 それだけでなく、意識が失いそうになる。ただの眠りなのか、別の何かか。分からない。


 ああ、これで本物を返せる。

 俺は殺されないはずだ。ずっと怖かった死を、回避することが出来た。それで十分ではないか。


「……力を、感じますか?」


 なんとか気力で笑いかける。手を離せば、主人公は自身の手のひらを、信じられないもののように見つめる。力を感じているのだ。


「力……?」


 そのはずだったのに、困惑している。俺の言ったことが分かっていない。

 つまり、能力を覚醒しなかった。


「何故……?」


 駄目だ。考える余裕が無いぐらいに、意識が遠のいていく。そのまま倒れそうになったところを、後ろから受け止められる。


 冷たい体を、温かいものが巡っていく。途絶えかけた意識が、無理やり引き戻される。

 かはっと息を出して、覚醒した。

 目の前には四人がいて、支えてくれているのは神威嶽だった。生気を分けたのだろう。その顔色は悪い。いや、他のみんなも青ざめていた。


「お前はっ、馬鹿か!!」


 眉間にしわを寄せて、神威嶽が怒鳴った。あまりの大きさに、ビリビリと場が震える。驚いて震えるが、誰も助けてはくれなかった。

 みんな同じぐらい怒っている。その怒りが伝わって、後ろめたさもあり顔をそらした。


「……なんの、ことだ……?」


 俺が何をしようとしていたのか、まだ気づいていないはずだ。だから知らないふりをすればいい。その考えを読み取ったみたいに、眉間のしわが深くなる。


 あ、これはバレているな。詳細は分かっていないとしても、大まかなことは察している。

 どうしてバレたんだ。今は頭が回らなくて、上手く考えられなかった。


「ちゃんと話す必要がありそうだな。ゆっくりとな」


 まずい。四人の怒りをどうにも出来なさそうで、助けを求めるためにリアさん達の方を見た。でも、助けを望めそうになかった。


「私達とも、話をする必要がありそうですね」


 こちらの方が、手強そうだった。




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