第98話 主人公の存在





「……おかしい。絶対におかしい」


 どういうことなんだ。俺は頭を抱えて、疑問を解決しようとした。でも答えは一向に出てくれなかった。


 戦いやら何やらで忙しくて忘れていたが、本来ならば主人公が光として現れるはずの時期がとっくに過ぎていた。

 俺が介入したせいで、話が変わってしまったのかと、光の力を覚醒したと名乗りをあげるのを待っていたのだが、全くその気配がない。


 おかしい。どうなっているんだ。

 自分の立ち位置を脅かされないと安心出来れば良かったが、いつ現れるか分からない不安がずっと付きまとうことになる。それは精神的に辛い。


「……ちゃんと、確認するべきだよな」


 確認すれば、結果がどうであれ少しは気持ちが楽になるはずだ。一度会った縁があるから、様子を見に行っても不審に思われることはない。

 その予定だったのに。


「詳しい理由を説明してください」


「えっと……」


「出来ないのですか?」


 こんなに圧をかけられるとは、思ってもいなかった。理由を話すまでは許してもらえなさそうな雰囲気に、素直に言うべきか迷って縮こまる。それがやましいことがあると判断され、神路は笑ったまま怒っていた。


「密会でも、するつもりですか?」


「密会? そんなことするわけないだろ。どうして、そういう考え方になった?」


「……前にも会ったことがあるのでしょう。神殿から逃げ出した際に、そこに滞在しようとしていたらしいではないですか。どうして、再び行こうとするのですか? ……また、いなくなったら……」


 神路の瞳から、ハイライトが消えた。俺が一度何も言わずにいなくなったせいで、神路に大きな心の傷を作ってしまったらしい。俺としては、軽くとらえすぎていた。


「逃げるつもりはない。ただ、お世話になったからお礼をしに行きたい。用が済めば、すぐに戻る。約束するから。な? 頼む」


「……ただ話をするだけ、そう約束してくれるのですね。私達の元へ、絶対に帰ってくると」


「ああ。そんなに俺は信用ないか?」


「いえ、そうではありません。……私が狭量なだけです」


 落ち込んだ神路に、チクチクと良心が痛む。傷つけてしまったのは俺だから、そのまま話を終わりに出来なかった。


「心配ならついてくるか?」


 どうすれば機嫌がなおるのか。自分の言葉をきちんと考えず、口に出していた。

 そうすれば悲しんでいたはずの神路が、パッと一瞬で悲しみの感情を消す。

 騙された。そう気づいた時には遅かった。


「ええ、そうおっしゃるのであれば、もちろんついて行きます」


 意気揚々とついて行く準備を整えだした神路に、今さら駄目だとも言えない。言ったらどうなるか怖くてだ。

 そう諦めて見守っていたのが悪かったのか、他の三人にも行こうとしているのがバレてしまった。

 当然自分達もついて行くと言い出して、断ろうにも無理な状況に追い込まれた。







「大所帯で訪ねてしまい、申し訳ありません」


「え、えっと……あの」


 困った様子のリアさんに、やはり人数を減らすべきだったと考えたが、ふと違う可能性に思い至った。


 そう言えば、ここにいるのは皇帝、神殿最高責任者、騎士、そして明らかに一般人ではない得体の知れない人。さらには、俺が光だというのも、この前公に出た時に知れ渡った。神殿とはそう遠くない距離にあるこの街に住んでいて、知らないということは無いはずだ。


 つまり、豪華なメンバーにリアさんは困っているのだろう。

 そうなる可能性を、来る前に気づかなかった。俺が完全に悪い。気づいていれば、全員では来なかった。

 あらかじめ使者を送って、訪問するのは伝えていたが、きっと俺一人だと思っていただろう。光が来るだけでも騒ぎになりかねないのに、この面々では驚きで失神してもおかしくないレベルだ。


 たぶん俺以外はそれに気がついていたけど、あえて言わなかった。置いていかれるのが嫌だからだ。子供か。それで困らせてどうする。


「ごめんなさい。困らせるつもりはなかったのですが、もう少し考えてから来るべきでした。あの、特に何かをするつもりはありません。ただ、お礼が言いたくて来ただけですので、リラックスしてください。……とはいっても、出来るわけないですよね」


 俺とリアさんは椅子に座っていて、俺の後ろには四人が、リアさんの後ろには英人さんが立っている。ひかりは、出かけているらしい。

 お世話になったお礼も言いたかったが、本来の目的は主人公の様子を確認することだったので、帰ってくるまでは時間稼ぎしなくては。幸い、少ししたら帰ってくるらしいので、そこは運が良かった。


「あの……セイさんと、ケンさんは……」


「はい。光と、その専属騎士です」


「そうだったんですね。知らずに、無礼な真似をしてすみません」


「謝らないでください。リアさん達には良くしてもらったので、感謝しています。あの時は、事情があって身分を隠していて申し訳ありませんでした」


「せ、セイさん。いや、光様、頭をあげてくださいっ」


 続く謝罪合戦に終止符を打ったのは、神威嶽の鶴の一声だった。


「とにかく、どういうことか説明した方がいいだろ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る