第94話 理由説明





 神々廻の話を聞いて、真っ先に出た俺の感想は一言でまとめられていた。


「馬鹿じゃないのか」


「手厳しいなあ。でもまあ、その通りだね。馬鹿だったと認めるよ」


 自分の非を認めるのは、簡単なことではない。でも神々廻は素直に認め、そして反省していた。

 深い反省に免じて、強く非難するのは止めたが、それでも馬鹿だという考えは無くならなかった。


「相手を止めるために、懐に入るのはまだいいとして、そこからどうしてトップまで上り詰めることになるんだ」


 自分で言っていて、意味が分からなかった。神々廻が姿を消してから、そこまで時間は経っていない。その短期間で、どうやったらこんな結果になるのか聞かずにはいられない。


「そう言われても、なりゆきでそうなったとしか答えられないんだよね」


「笑っている場合か。そのせいで自由時間が無くなって、こちらに帰って来られなかったせいで、反逆者だと思われていたんだ。一歩間違えたら、死んでいたかもしれない」


 神路でさえ、神々廻が黒幕だと信じていた。それぐらい上手く溶け込めていたとも言えるが、死んだら元も子もない話だった。分かっているはずなのに、笑っている神々廻に恨みをぶつける。


「俺だって、ここに来るまで心配だった。信じていたけど、もしかしたらっていう考えが、ずっと頭にこびりついて離れなかった」


「ごめんね、怖がらせて。でも信じて、一人で来てくれて嬉しかった」


「……一か八かの賭けだったけどな」


 俺は神々廻の胸の辺りを、拳で軽く殴った。痛みはなかったはずだが、気持ちを乗せたせいか神々廻は少しよろめく。


「……トップになったんだから、どうやって潰すかも分かっているよな?」


「あはは。分かっていないって答えたら、呆れて見捨てられそうだね。……安心して。ただ流れに身を任せていたわけじゃないから。作戦は立てているよ」


「それなら良かった」


 本当に良かった。俺のせいで、神々廻が闇堕ちしていなくて。敵になっていなくて。

 戦わなければ駄目な状況になったとしても、きっと最後まで動けなかっただろう。殴ってやると考えていたが、それも出来なかった気がする。


「こうしている場合じゃない。相手に勘づかれる前に、さっさと倒しに行こう。まだ神々廻を仲間だと信じているうちに。その方が油断して、スムーズに事を進められるはずだから」


「それはいい考えだね。その前に、一つ聞いてもいい?」


「なんだ?」


「念の為に確認するけど、ここに来ることは他の人達に言っているよね? ちゃんと許可をとってから、ここに来たんだよね?」


 俺が肯定するのを待っている響きがあった。でも申し訳ないことに、その期待には答えられない。


「いいや。反対されたから、こっそり抜け出してきた。あ、でも書置きは残しておいた。ちゃんと帰ってくるから心配するなって」


「……あちゃー」


 答えを聞くと、額に手を当てて声を上げる。その顔は、やらかしたとばかりの表情を浮かべていた。笑ってはいるけど、どこか引きつった口元に、何をやらかしてしまったのかと心配になる。


「まずかったか? 多少は怒られる覚悟はしているが」


「君は説教で終わるかもしれないけど…………来た」


「来た?」


 口の前で、人差し指を立てたので、俺は疑問に思いながらも静かにした。でも、何も聞こえない。静寂だ。

 神々廻の気のせいではないかと言おうとした時、突然大きな爆発音が響き渡る。

 その音はまだ遠くから聞こえたけど、どんどん近づいてきていた。こちらに向かってきている。


「……何が来たんだ?」


 なんとなく予想が出来たが、神々廻に尋ねる。


「……まあ、反対したはずなのに、護衛もつけずにいなくなったのを発見したら……どうなるかは火を見るより明らかだよね。……生きて帰れるかな」


「さすがに早過ぎないか?」


「いや、むしろ遅かったよ。本当なら、ここに辿り着く前に気づいて止めるべきだった。そこまで行動力があるとは思っていなくて、無茶はしないだろうと考えていたのかもね」


 スピードを上げて近づいている中、のんびりと話しているが、そこまで余裕をかましている場合ではなかった。

 音のする方から、かなりの怒りを感じていた。ただの妄想と言われそうだが、本当に凄まじい怒りが伝わってきているのだ。

 それは神々廻も同じらしく、こめかみに汗がつたっていた。


「やり合うなら、万全な状態の時がいいんだけど。この様子だと、話も聞いてくれそうにないかもね。問答無用で殺されそう。はは」


「笑っている場合か」


 この状況を作り上げた原因が、自分と分かっていた。怒りはきっと俺にも向けられている。


「三人で来たみたい。留守番するなんて、誰も考えなかったのか。愛されているね」


「今はそれを実感したくなかったけどな」


 軽口を叩いている間も、こちらに向かってきた爆発音が急に止まった。また辺りを静寂が包み込んだが、安心できるほど楽観的ではなかった。

 嵐の前の静けさだ。それを裏付けるように、壁が目の前で吹っ飛んだ。





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