第81話 優秀な人材
神路が実行役になったとはいえ、時間がかかると思っていた。さすがに神路でも難しいと。
でも、この考えは、彼の能力を低く見積もっていたこととなった。
「……どんな、魔法を使ったんだ?」
目の前の光景を見て、俺は無意識に質問していた。夢ではないのか。そう思ったが、いくら目をこすっても変わらない。頬をつねったら痛かった。
「私も、やる時はやるということです」
首を傾げた神路は、なんてことのないふうに言っているが、どれだけのことをしたのか自覚しているはずだ。
「は、はは……」
力ない笑いが口からこぼれた。力も抜ける。
でも、それは負の意味で起こったのではなかった。
むしろ逆だ。
前に姿絵で見た通りの人が、猿轡をされロープで縛られた状態で、俺の前に転がされている。
拘束されていない目は、俺に向けられていて何かを訴えていた。その努力のかい虚しく、何が言いたいのか全く伝わってこなかったが。
「俺の目に間違いがなければ、皇弟だと思うんだが」
「ええ。間違いなく皇弟です。影武者では無いのも確認済みです」
「そうか……えっと、皇弟を生け捕りにすると向かったのは、いつのことだった?」
「今朝ですね」
「……そうだよな」
俺が時空を超えていたわけでもないらしい。まだそっちの方が納得出来た。
無事に帰ってきますようにと、祈りながら見送ったのは、確認した通り今朝のことだった。
最低でも一ヶ月はかかるだろうと、そう考えていたのだが、外が薄暗くなってきた頃にお土産と共に帰ってきた。
それが皇弟なのは、見てすぐに分かったけど脳が認めようとしなかった。
どうして一日も経たずに連れてこられたのか、無傷で帰ってこられたのか検討もつかない。考えても浮かぶはずもないから、思考を放棄した。
「どうやって、こんなに早く連れてこられたのか、俺にも分かるように説明してくれないか」
あまりにも思考が追いつかなくて、途方に暮れた声が出た。いいことなのに、素直に喜べない。
混乱の方が大きすぎるので、それを解消して欲しかった。
「……そうですね。一言で説明するならば、私の能力です」
「それは比喩ではなく、本当に能力のおかげということだよな」
「はい。まだ私の能力について、詳しくは話していませんでしたよね。代償のことは、前に一度お話しましたが」
代償の無効化を初めてした時に、神路の代償は乗っ取りだと教えてもらったが、能力については聞いていなかった。気になっていたはずなのに、色々あったせいですっかり忘れていた。
「どんな能力なのか教えてくれ。いや……待て、それよりも代償は? 能力を使ったのなら、代償もあったわけだろう。大丈夫なのか?」
乗っ取り、その代償がどのぐらい続くのか。俺は知らない。今は元に戻っているようだが、きっと大変だっただろう。
こんなことなら、俺も一緒に着いて行くべきだった。後悔しても遅い。
神路の体をぺたぺたと触り、体調を確認していく。大丈夫そうだけど、確信は得られない。
「おい。平気なくせに、いつまで触らせているんだ」
ずっと続けていたら、神威嶽が神路に対して文句を言った。平気だと言うのは、なにか根拠があっての言葉みたいだ。
「本当に、平気なのか?」
「ええ。不思議なことに、能力を使っても代償がなかったのです」
「なんで?」
「理由を調査しておりますが、まだ不明です」
代償がなかったのはいい話だが、原因が不明となると微妙な状況である。もしかしたら、今から起こりうるかもしれないのだ。それはそれでまずい。
「まさか……俺のせいか」
今までそんなことがなかったのなら、変わったものが理由の可能性が高い。それは俺以外にない。自意識過剰ではなく、これは事実だ。
「いえ、そのようなことは」
「分かっているはずだ。隠し事は許さない」
目を合わせて言えば、神路は視線をそらしかけて、それを諦めた。
「……おそらく。しかし、前回は接触で解消されましたが、今回はそうではありません。やはり原因不明なのです」
叩かなくても、祈らなくても、代償を消す方法がある。それを上手く活用出来れば、こちらに有利に働く。
「理由を早く見つけよう。そうすれば、こんなにいい知らせはない」
「それもそうかもしれませんが、聖さんの身が心配です」
「特に体に不調は無いから、倒れることはない。むしろそうなった方が、理由も分かりそうだが……悪い。もう言わないから、そんな怒らないでくれ」
「逆の立場だったとしても、そんなことが言えますか?」
「そうだな。さすがに聞き捨てならない」
二人の鋭い視線にさらされたので、俺は手をあげて降参のポーズをとった。逆の立場だったら、自分を大事にしろと怒っただろう。それを、今二人は感じているわけだ。余計なことは言わない方が賢い。
「……この話は、また後にしよう。今はまず、どう料理するか決めるのがいい」
放置していた皇弟に視線を向ければ、怯えたように身をすくませる。自分の行く末を案じて、絶望した目をしていた。
俺はその恐怖をさらにあおるために、にっこりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます