第79話 不在の存在
神威嶽も神路も、味方になるとなんて心強いのだろう。俺は必要ないのではと思うぐらい、二人のおかげで計画の準備が進められていく。俺がしているのは、提案に対して頷くぐらいである。二人が決めたものに、素人の俺が口を出せるはずがない。
でも、ずっと足りないと感じていた。あるべきものが欠けていて、早く埋めなければとどこかで焦っていた。
「あの……ミカさんは、どこにいるのか知っているか?」
いつまで経っても出てくる気配がないから、さすがにと思い二人に聞いた。
その名前を出した途端、場に緊張が走った。この反応だけで、よくないことが怒ったのが容易に察せられた。
神々廻がここにいないのは、呼んでいないのではなく事情があるからだ。
この緊急事態にも来ないなんて、よほどのことだろう。まさか怪我でもしたのか。
俺の顔に浮かんだ心配の色を読み取ったのか、神路が落ち着かせるために手をあげる。
「心配しなくても、怪我をしたわけではありません。ただ……連絡がつかないのです」
「連絡がつかないって……」
一大事ではないか。なにかトラブルに巻き込まれたか、連絡する暇がないほど忙しいのか。
でも、俺達がこれからやろうとしているもの以上に大事なものとはなんだ。全く思いつかない。
怪我はしていないと言われても、全く安心できなかった。
「会えないのか? 別に疑っているわけではないが、自分の目で確かめないと不安が残ったままになる」
「……残念ながら、それは難しいです」
一目見るのも駄目なんて。ますます神々廻の身が心配になる。
今、どこにいるんだ。どこかにいるはずの神々廻に、脳内で話しかける。当たり前だが答えはなかった。
「出来れば、事を起こす前に合流したい。……連絡をとる方法があるなら、どうにか伝えてほしい。もしかして、それも無理なのか?」
無理だと言うのなら、諦めるしかない。俺には連絡する手段がないのだから。
小さく息を吐きながら、一瞬だけ神威嶽と神路が視線を交じらわせたのを確認した。
そのやり取りで、俺に隠し事をしていると気づいた。二人とも、神々廻について俺に言っていないことがある。教えてくれないということは、俺が知ったらマズいと判断されたのだ。
そう判断したのなら、俺は大人しくするべきだろう。頭では分かっている。
でも納得できるのかと言われれば、難しかった。俺は納得出来ずに、神路を睨みつけた。
「俺には言えないのか。今は聞かなくても、いつかは教えてもらうからな。隠した理由が俺の満足いかないものだったら、その時は……覚悟しておけ」
俺としては精一杯脅したのだが、全く効果はなかったらしい。涼しい顔で流されてしまった。
「ミカさんの力が必要なのは事実だ。相手の力が強大なのは、俺よりも分かっているだろう。誰の力も不可欠だ。それを頭に入れておいてくれ」
俺が忠告しなくても、すでに分かっていただろうが、それでも何か言っておきたかった。
「妬けるな。ここにはいない奴ばかり気にするなんて」
気をそらすためか、また神威嶽がちょっかいをかけてくる。相手にしなくても良かったが、今の俺は気がたっていた。
「ああ。とても気になっているから、当然だろう? ……一緒に逃げようと言ってくれた」
「なっ!」
神威嶽だけでなく、神路までもが驚いた。知らなかったのか。まあ、わざわざ言いはしないか。
俺は意識して頬を赤らめ、満更でもない表情を浮かべた。唇に手を当てれば、ギリっと歯ぎしりする音が聞こえた。
確かにキスはした事実はあるが、それは随分と前の話で同意されたものでは無い。でも、それを二人は知らない。
クスッと笑いながら、さらに言葉を続ける。
「プロポーズもされて……ははっ」
最後には吹き出してしまい、これがただのからかいだと教えてしまった。俺としてはバレたと思ったのだが、まだ二人の表情は険しかった。
「プロポーズ? まさか受けたとは言わないよな。それは許せない。絶対にな」
「……少し話をする必要がありそうですね」
「えっと、違う。これは、ただの冗談で」
からかいすぎた。様子を見て、すぐに白状したのだが、すでに手遅れだった。
「ま、待て。今はもっと話し合わなければいけないことが……こんなことに時間をとっている場合じゃ」
「こんなこと? 何言ってるんだ。一大事に決まっているだろ。まさか、俺の言葉を忘れたわけじゃないよな?」
「だから前に言ったでしょう。あなたはたくさんの人を惹きつける。こちらの方が最優先事項です。今すぐ話し合いましょう」
「それに関しては、俺も同意見だ。じっくりゆっくり話し合おうじゃないか。色々と聞いて置かなければ、いけないこともありそうだしな」
ああ。苛立っていたとしても、この話題を出すべきではなかった。今さら後悔しながら、全てをさらけ出す覚悟を決めて、恐ろしい相手に向き直った。
神威嶽、神々廻、神路全員にプロポーズされたのを、本人に知られるなんか気まずくてたまらなかった。でも、この世界では光は複数人をパートナーに出来るからか、そこまで気にした様子はなかったのだが。俺の方がダメージを受けた。
もう、変なことは考えない。余計なことは言わない。
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