第77話 戦いの準備





「聖さんの予知によって、危機が迫っていると判断されましたので、皇弟派と反神殿派を排除するために動くことに決まりました」


 神路がそう判断したと告げたのを、俺は全く驚かなかった。こうなるのは予想済みだった。

 俺の話に信憑性があり、相手が今すぐにでも戦争を起こそうとしているのが、調査の結果分かったのだろう。早く対処しなければ、最悪の事態になると。


「てい……陛下も許可を出したのか? 前に話した時は、微妙な問題だからすぐには行動を移せないとされたが……」


「調査の結果、泳がす段階ではもうありませんでした。こちらから動かなければ、聖さんが話してくれた通り、たくさんの犠牲が出るでしょう。それは、陛下も望んでおりません」


「……そうか。でも俺の話通り、全てが進むとは限らない。その場合でも、犠牲が出るかもしれない」


「行動せずに後悔するよりは、行動した方がいいです」


 もしそうなったとしても、俺に全責任を負わせるつもりはないようだ。安心した。全ての首謀者とされれば、即死刑だろう。本来の運命よりも悲惨だ。


 自分のためもあるが、国のために勝ちたい。平和な世界にしたい。

 俺はしっかりと神路の目を見た。


「俺も同じだ。この国を守りたい。絶対に勝つために、どんなことでもやるつもりだ。……信じてくれて、ありがとう」


 信じてもらえなければ、残念なことに俺には何も出来なかった。俺の力なんて、大したものではない。人の力を借りる必要がある。

 それが歯がゆくもあり、嬉しくもあった。力を貸してくれる人がいるのは、俺が必死に生きてきた証な気がした。


「あなたを信じるのは、今までのことを考えれば当然のことです。陛下も気にしていました。すぐに賛成出来なかったことを。もしかしたら、そのうち謝ってくるかもしれませんね」


 そうか。神威嶽も気にしていたのか。

 君主として、結論を急いで出さないのは普通のことなのに。むしろ、信じてくれただけで奇跡みたいな話だ。


「謝罪なんて必要ない。俺を信じて、力を貸してくれれば。この国を守ってくれれば、それだけでいい」


 目を閉じた。そして深呼吸をすると、ゆっくりと目を開く。


「平和のため戦おう」


 これは今までとは違い、物語を壊しかねない行動だった。ここで誰かが、物語に必要な人がいなくなれば、どう展開していくか。もっと悲惨な結末が待っていて、変えなければ良かったと後悔するかもしれない。


 それでも、俺はもう止まらなかった。

 ここで止まるぐらいなら、最初から動きはしない。全てを賭けて救う覚悟を決めた。


「ええ。必ず勝利を収めましょう。私達なら、それが可能です」


 その言葉だけで安心するぐらい、神路が味方でいるのは心強かった。






「……まさか、そんなことが……」


 俺は剣持にも、戦いのことを話した。仲間はずれにするつもりはない。剣持の力も必要だった。


「前におっしゃっていた困難とは、このことだったわけですね」


「ああ、そうだ。まだどうするか決まっていなかったから、あやふやな言い方をして悪かった。決まってから、ちゃんと話すつもりだった」


 言いわけがましい。これでは、逆に怪しい気がする。自分でも思ったのだから、言われた剣持はもっとそう感じただろう。


「いや、えっと」


「分かっています。むしろ、今話してくださっただけでも光栄です。俺を戦力として認めてくださった、そう考えていいですか?」


「ああ。剣持の力が必要だ」


「聖様が望むなら、俺は全力で戦いましょう」


「ありがとう。でも、無茶な戦い方はしないでくれ。戦いに勝ったとしても、怪我をしたり死んでしまっては意味が無い。これは命令だ。分かったな?」


「……はい」


 剣持はすぐに自分を犠牲にしようとするから、きちんと言っておかなければ駄目だ。絶対に自分を犠牲にしてまで、戦おうとするはず。

 命令をすれば、破りはしないだろう。少しは考えていたのか、後ろめたそうな顔をしながら頷いた。まったく油断も隙もありはしない。


「……俺は、何をすればいいでしょう。どう力を貸せますか?」


「剣持には重要な任務をしてもらう。……俺を守ってくれ。俺は前線で戦うつもりだ。サポートをするために。そして戦いが始まれば、たぶん俺が一番狙われる。終わるまで殺されるつもりは無いが、それでも隙をつかれたらどうなるか……その時に守ってくれる、信頼出来る人は剣持しかいない」


 これは、剣持にしかできない。それ以外は他にやるべきことがあるか、信頼出来ないかのどちらかだった。

 適任なのは、たった一人。俺を任せられるのは剣持だ。


「……そんな大事な役目を、本当に俺が務まるでしょうか。もっと強い人は他にもたくさんいるはずです。俺は、俺は……」


「何言っているんだ。剣持は強い。強くなるために、凄い努力を重ねてきただろう。大丈夫だ。自信を持て」


 あの神威嶽が、成長を見込めない人間に指導するわけがない。才能を秘めていると、そう感じたから気にかけたのだ。


 自信を持たせないと、本来あるはずの力を発揮できない。俺は勝つ確率を少しでもあげるために、剣持に励ましの言葉をかけた。


 本心を隠さずに言っていれば、顔を真っ赤にさせた剣持がようやく自分の力を過小評価しなくなった。

 これで一歩、勝利に近づいたはずだ。





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