第74話 頼れる相手
「未来を予知したというのは事実ですか?」
神路が俺の部屋を尋ねてきたのは、神威嶽と話した翌日だった。きっと話を聞いたのだろう。大事なことだから、相談するのは当然だ。
神路はかなり驚いただろう。偽者であるはずなのに、代償の無効化だけでなく、予知まで出来ると知らされたのだから。
もしかしたら、ハッタリだと疑っている可能性もある。そう思われても仕方ない。
「はい。陛下にも言いましたが、まだはっきりとはしていません。……確かな情報とは言えず、混乱させるだけかと思いましたが、国に関わることなのでお伝えしました」
神路は剣持のいない時間を狙ったらしく、今は二人きりだった。息を切らしているから、カメラで確認して急いで来たのだろう。
それぐらい重要な話というわけだ。断言できない旨を伝えたのだが、顔をしかめられる。
きっと信じられないのだろう。嘘だと言われるのを覚悟する。
「……まだ、私には敬語のままですか」
何故、急にそんなことを言い出したのか。よく分からないタイミングだったので、止まってしまった。
神路に対してまだ敬語を使っているのは、そうするべきだと思ったからだ。特に深い意味はない。
でもわざわざ言ってくるのは、変えてほしいからだろう。使わなくていいのか。不敬だとされそうで怖い。
そんな葛藤が伝わったらしく、さらに顔をしかめた。
「私のことをまだ許していないからですよね。分かっています。あなたを傷つけてばかりでしたから、これ以上望むのは罪でしょう」
別に怒っているから、敬語を使っているわけではない。でも神路はそう決めつけて、一人で納得したように話を進める。
このまま変な方向に向かいそうだ。さすがにとんでもない勘違いなので、これは訂正しなくては。
「ち、違います。神路様に緊張していて、敬語の方がいいと思っただけです。直せとおっしゃるならば、頑張って変えてみますが」
神威嶽に対しても、敬語無しで話せるようになったのだ。慣れるまで時間がかかるかもしれないが、絶対に不可能では無い。
「それなら、少しずつでいいので敬語を止めていただければ嬉しいです。それと、様付けしなくていいですよ。私も、聖さんと呼ばせてもらいます」
自分は敬語を止めないのかとも思ったが、もうこの口調が普通になっているのだろう。変える変えないではなく。
それならいいかと、俺は拳を握った。
「えっと、早く慣れるように……頑張る」
ぎこちなさのある言い方だったのにも関わらず、神路はとても嬉しそうに笑った。邪気のない笑い方に、俺の中にあるものが浄化されそうだった。
「ありがとうございます。私のわがままを聞いていただいて。……それでは、話を戻しましょうか」
話をそらしたのは完全に神路だったが、そこは指摘しないでおく。わざわざ時間を無駄にする必要は無い。
「その予知は、いつどうやって見たのですか?」
急に真面目なトーンになって、確信をつく質問をしてきた。その目は、ごまかしを見逃さない鋭さがあった。距離を縮めたとしても、そこは厳しいみたいだ。
「夢に、近いものだった。うたた寝をしていた時に、この国が聞きに陥るイメージを見た。所詮は夢だと思ったけど、あまりにもリアルで……現実に起こったらと不安になって」
これも完全な嘘ではない。リアルなイメージを、俺は頭の中に持っている。それが現実にならないかと、不安に感じているのも本当だ。細かいところは気にしないでくれればいいけど。
「……詳しい状況を、思い出せる限りでいいので教えてください。誰がどのように動き、どのような事態が巻き起こされたのか。覚えていることは全部。それを聞いてから、今後どうしようか考えましょう」
これは、まだ完全に信じたわけではない。でも俺の話次第で、きっと力になってくれるはずだ。
それなら、俺は全ての情報をさらけ出さなくては。今後のために。犠牲を減らすために。
「俺が見たのは……」
できる限りの内容を思い出して、俺は全てを話した。途中で剣持が帰ってきた気配があったが、重大な話をしていると分かったのか、どこかへ行ってくれた。
そのおかげで、話に集中することが出来た。
「……話せるのは、ここまでだ。細かい部分は、何かがきっかけで思い出すかもしれない。でも今は、話したことが全部だから。その時は、すぐに伝える」
休むことなく話したせいで、とても疲れた。近くにあった水差しをとり、コップに水を注ぐ。
「飲む?」
神路はコップを見つめて、戸惑っているようなので場を明るくさせるために笑う。
「毒なんて入れてないから。平気だよ」
冗談で明るくさせるつもりだったのに、逆に変な空気になってしまった。とりあえず立て直すために、先に一気飲みをする。
「ほら。一緒に困難を乗り越えるつもりなのに、弱らせるわけない。それとも、俺が信じられないか?」
別にプレッシャーをかけたかったわけではない。でも結果的に、そうなってしまった。
覚悟を決めた顔で、改めて注いだコップを掴み、神路にしては乱暴な仕草で一気飲みした。
「信じていないわけがないでしょう」
その顔は、俺を信じているとまっすぐに伝えていた。
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