第73話 覚悟を決めて





 主人公を排除しようとは望まない。共存するのだ。

 光の立場は大人しく譲り、俺だけの立ち位置を得る。


 ……そして、みんなと過ごしたい。

 ここに恋愛感情が生まれるのかどうか、可能性はゼロではない。でも、誰をと聞かれても困る。

 自分が恋愛できるかどうか、その自信がなかった。


「言った方がいいか?」


 俺の事情を。俺の立ち位置を。

 ……主人公の存在を。


「……無理だ」


 それを言えるはずない。言ってしまえば、騙されたとなじられるかもしれない。

 もう少し確信を持ててから、その時に話そう。


 とりあえずは、主人公のことは置いとく。それよりも先に、倒さなければいけない敵がいる。俺のためにも、光のためにも、処理しておかなければいけない相手。


 きっと力を合わせないと、歯が立たない存在である。本来ならば、まだ時期を見た方がいいのかもしれない。俺じゃなく、主人公がやるべきなのかもしれない。

 でも、平和の方が絶対にいいはずだ。誰も傷

 つくことの無い、優しい世界。



 俺は目下の敵である、反神殿派と皇弟派の力を削ぐつもりだった。敵の大きさも、誰が一番危険なのかも分からない。

 それは、神威嶽や神路に聞けば教えてくれるはずだ。神々廻の力も必要になる。剣持には、俺のことを守ってほしい。


 全員の力が必要不可欠だ。

 倒したいと言って、どこまで賛成してくれるだろうか。俺だけでなく、他の人にとっても目障りな存在なのは変わりないから、考えているよりも簡単かもしれない。


 そう軽く考えていたのだが。



「……つまり、俺の提案は却下するってことか」


 思っていた反応を得られず、俺は空気を重くさせないようにヘラりと笑った。


 まずは誰から説得しようかと思い、いちばん簡単そうな神威嶽からにすると決めた。

 命を狙われている立場は、かなりのストレスになっているはずだ。だから、すぐにでも戦いを挑みに行こうと言うと期待していた。


「……それは、あまり賛成できないな」


 でも、その答えは正反対だった。

 眉間にしわを寄せて、遠回しに反対だと告げてくる。まさかの答えに、俺は驚いて頭が回らなかった。


 とりあえず駄目だと言われたのだけは伝わったので、俺はその理由を教えてもらいたかった。


「皇弟派に頭を悩ませているのに、何故どうにかしない? 悩みの種は、大きくなる前に潰しておくべきだろう」


 早く対処しないと、相手はさらに力をつけてくる。ここで潰しておくべきだ。そう思ったのに。何故か、神威嶽は乗り気ではない。


「……そう簡単なことじゃない。潰した後が大変で、国を混乱に導く。そのまま飼い殺しにしておいた方が、楽なこともある」


「でも、ずっと命を狙われ続けるだけだ。大事な人が出来て、守れるかどうか不安だろう。怖いから、俺のことも遠ざけた。それを一生続けるつもりか?」


「……それでもだ。戦ったら、たくさんの犠牲が出る。関係の無い人がな。俺は、それが嫌だ」


 神威嶽の言うことも分かる。向こうも、簡単に倒されてはくれないだろう。戦いの間、犠牲がゼロの可能性はとても低かった。

 犠牲が仕方ない、とは言えない。平和に終わらせられれば、それが一番だった。


「……そのままにしていて、未来でそれ以上の犠牲者が現れると分かっていたら?」


「……予知でもしたというのか?」


 光には予知能力も備わっているのか、神威嶽に驚いた様子は無い。むしろ、もっと話を聞きたそうだった。


「確実なことは言えないが、その可能性は高い。向こうは結託して、よからぬ事を企んでいる。自分達の欲望を叶えるために、なんだってするつもりだ。どんな犠牲を払ってでも」


 これは、あながち嘘ではなかった。小説の中で、突然人々が襲われる事件が発生する。

 その全てが、襲われる前に神殿か城のどちらかに関わっていたので、不信感が向けられることとなった。


 黒幕は皇弟派と反神殿派だったのだが、それを隠して皇帝と神殿を非難した。ほとんどは騙されなかったけど、全員ではなかった。

 その人達が反乱を起こし、鎮めるのにたくさんの犠牲を払った。


 聖はその混乱の中で、光に危害を加えようとして失敗した。そして、捕まるという流れになった。俺にとっても、無関係とは言えない出来事なのだ。


 戦いは勝つが、そこに至るまでは大変だった。簡単には終わらず、向こうの諦めも悪かったために泥沼状態に陥りかけた。

 それでも勝利したのは、優秀な人がいたからだ。


 そのうちの一人である神威嶽は、俺の話が本当かどうか見定めようとしている。嘘や間違いであれば、ごめんなさいで済むことではない。戦いを起こそうとしているのだから、慎重にならざるを得ない。


 ここで簡単に信じないところが、神威嶽が君主として素晴らしい点なのだろう。いくら好意を持っている人の言葉だとしても、国を揺るがす事態の場合は簡単に決められない。


 俺が本当のことを言っているのか、じっと表情を読み取ろうとしている。俺は緊張しながらも、その顔を見返した。


「……少し、考えさせてくれ」


 深刻な顔をして神威嶽はそれだけ言うと、別れの挨拶もせずに部屋から出て行った。

 引き止めることなく背中を見送ると、俺は説得するための材料を増やすために立ち上がった。




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