第67話 仲を改善する
「……完全に策にはまったわけだね」
そう言って苦笑した神々廻に、俺はしてやったりとドヤ顔に近い顔をする。
「そうですね。成功率は高いと確信していました。俺がピンチになったら、必ず現れてくれるはずだと」
「もし現れなかったら、どうするつもりだったの」
「大丈夫でしたよ。ずっと俺のことを見守っていてくれたでしょう?」
「……そこまでバレていたのか、恥ずかしいな」
あれから、大人しく家まで帰ってきて話をしている。立ち話でする内容でもなかったし、どこで誰が聞いているか分からない。それに、落ち着いて話がしたかった。
店で買ってきた果物を切って、それを食べながら話を進めていく。深刻な雰囲気にさせないためだ。
嫌な空気が漂っていると、すぐに変な方に行ってしまう。また気まずい状態になるのは、苛立ちが募っていくので勘弁したい。
きっかけは神々廻でも、俺から歩み寄らなければ、ずっとこのままになる。どうして俺が、そんな気持ちが全くないとは言わない。でも、ここは俺が大人にならなくては。
「……あの時のことは、俺も大げさに反応しすぎました。もう忘れますから、逃げ回るのを止めてくれますか?」
あの時と濁したが、いつの話をしているかはさすがに分かるはずだ。伝わったからこそ、微妙な顔をした。
「忘れる……」
「あれは事故だったのです。それなら怒る理由もありません。ミカさんも好都合でしょう?」
忘れてしまえば、仲違いの原因も無くなる。お互いのためになるだろう。
そう考えての提案だった。
神々廻も飛びついてくると思ったのに、何故か反応が悪い。
「なにかご不満でも?」
「……その方がいいって分かっているよ。忘れれば許してくれるなんて、とてつもなく寛大な提案だ。でも、それは……凄く、嫌だなあ」
「嫌?」
首を傾げると、神々廻が手を伸ばし頬に触れてきた。向こうから触ってくるのは久しぶりだったから驚く。
「わがままだって、自分が一番思っている。でも、忘れてほしくないんだ」
神々廻の目から、一筋の涙が零れて落ちていった。キスを忘れてほしくないと、そう言ったのか。……どうして?
「はっきり言わないと、伝わらないこともあるよね。特に君は、とても鈍感だ」
するりと頬を手が往復していく。痛みは無い。でもくすぐったくて、身をよじる。
「偽者の光だということに負い目を感じているなら、もう神殿にも城にも戻りたくないなら……ずっとこのまま一緒に過ごせばいい」
きっと、プロポーズされている。
その真剣な眼差しと、雰囲気が、俺に理解させた。
「いつから、俺を?」
神々廻との付き合いは、他の人と比べると短い。まだお互いのことをよく知らないのに、プロポーズだなんて段階を吹っ飛ばしすぎである。
いつから、そんなに思われていたのか。俺が鈍感なだけだとしても、さすがに気づかなかったのは悪いかもしれない。
いつから好きだったのか聞けば、神々廻が頬を染めた。照れている。それにつられ、俺も恥ずかしくなってきた。
「……ずっと前から、それこそ知り合う前から、見ていたって言ったら……どうする?」
「え?」
「ご、ごめん。気持ち悪いよね。こんな話」
「えっと、その詳しく話してください。話を聞いてから決めます」
怯えている神々廻だが、俺は逃がすつもりはない。本当にストーカーじみた行為をしていたのなら、俺は知る権利がある。
「……光の行動を監視するのが役目だった」
「つまり俺を監視していたわけですね」
「そういう、ことになるね。ごめん」
「怒っていませんよ。俺を監視するのは当然のことです。要注意人物ですから。だから、俺が偽者だと気づいたのでしょう?」
怪しい人物を監視するのは、別におかしなことではない。それについて、俺は文句は言わない。監視カメラがあっても、一応平気で生活をしてきた実績がある。
「……本当にごめん」
「だから怒っていませんって……むしろ凄いですね。全く気づきませんでした」
監視カメラは気づいたけど、他は全く気づいていなかった。それぐらい、気配を消していたということだろう。
「……変な人だね。怒らないで感心するなんて。本当、変だ……」
クスッと笑い、神々廻は口元を手で覆う。
「嫌なら怒って。俺は、どんどん欲張りになるから。許されたら、ずっと傍にいたくなる。全てを知りたくなる」
くぐもった声で、早く切り捨ててくれと言ってくる。堂々としたストーカー発言なので、これを受け入れたら相手は本当に際限なくなる。拒否するべきだ。
でも俺は答えを出す前に、疑問が先に浮かぶ。
「ここで俺が拒否したとして、姿は見せなくても隠れて見ないと誓えますか? 俺が気づかないうちに、遠くから監視することだって可能ですよね」
図星をつかれたのか、視線が遠くにそれた。
「もしかして、どちらにしても見るのを止める気は無いですか? 気づかれなければいいだろうと、そう考えていません?」
「そ、れは……」
「正直に言ってください」
じっと見続けていれば、降参するように手をあげた。
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