だから俺は偽者なんだ！

第53話 事情説明

「あなたに信用してもらえるように、きちんと説明しましょう」

　自信がある様子だから、矛盾の無い説明ができるのだ。帰ってきた時の様子から考えて、神路は黒幕では無いと思っていた。

　でも、まだ確定していない。

「あなたを危険にさらしてしまったことは、申し訳ないと思っております。多くの手違いがあった結果、こんなことになってしまいました」

「手違い？　どんな手違いがあれば、命を二度も狙われることになるのですか。ぜひ、教えてください」

　危険な目に遭ったせいで、伝わるぐらいの嫌味を織り交ぜてしまった。神路が気づかないはずはないのに、それに反応してこない。

「……実は、あなたが狙われているのを事前に察知していました」

　それを聞いて、剣持が動き出そうとしたが俺に掴まれて留まった。どうして止めるのかと訴える視線を感じるが、俺は気付かないふりをする。

　ここで暴れられてしまったら、話を再開するのに時間がかかる。とにかく我慢してもらうしかない。どんなに怒りが湧いたとしてもだ。

「事前に察知していた。それなら俺が襲われるのを知っていて、あえて護衛にあの人達を選び、そして俺を襲わせた。どこまでがあなたの計画通りだったのですか？　俺が死ぬまでが計画の内でしたか？」

「いえ、違います。襲撃は未然に防ぐつもりでした。あなたが危険な目に遭う前に。犯人をとらえるはずだったのです」

「それなら、どんな手違いがあって防げなかったのでしょう。教えてください」

　神路は言葉に詰まる。後悔して、苦しそうに見えた。

「……裏切り者がいて、あなたが出発する時間を早められたのです。気がついた時には、あなたが出て行ってから、すでにかなりの時間が経過していました」

　出発する際、急いでいる様子だったのを思い出すと、その言葉は真実味を帯びている。

　でも、まだ疑う気持ちは消えない。

「二度目の襲撃は？　あれは、どういう計画の手違いがあったのでしょう？」

　最初のは手違いだったとしても、二度目はその言い訳は通用しない。

「あれは、私達も想定していない事態でした」

「神殿は関係なかったと？」

「はい。信じてもらえないかもしれませんが……実行者がもういないので、無実だと証明する手立てが、残念ながら無いのです」

「きちんと見張っていれば良かったですね。これでは、わざと口が聞けなくなるように放置していたと思われても文句は言えません」

「……おっしゃる通りです」

　さすがに責めすぎたか。勢いの無くしてしまった神路に、犯人ではないと思ったからこそ、罪悪感が湧いた。

「分かりました。神路様の言うことを、全て信じましょう」

「聖様よろしいのですか？」

「ああ。剣持も、話を聞いて分かっただろう？」

「ですが……」

　納得していないのは、危ない場面が何度もあったからだろう。それでも、神路の話を聞いて嘘をついていないと、剣持だって分かった。だから微妙な表情を浮かべながらも、神路を殴ろうとする気配は無かった。

「そんなに、簡単に信じてよろしいのですか？」

「俺が良いと言っているのですから、素直に喜べばいいのでは？　そちらの方が、都合がいいでしょう。……それに、心配していたのが演技だったとは、あまり考えたくありませんので」

　もしもこれが全て演技だとすれば、騙されるしかない。嘘だとは思えなかった。それなら信じてみた方が、ずっと楽だ。

「あなたは、どうして……信じてもらえるようなことを、今までしてこなかったのに。どうしてそこまで……」

　信じると言っているのに、何故か食い下がってくる。素直すぎて怪しく見えているのだろうか。

「何もしてこなかったわけではないでしょう。俺がこうして生きているのは、神路様が生かしてくれたおかげでもあります。伝わっていないようですが、これでも感謝しています」

　期限付きの光として選ばれていなかったら、普通の生活を送っていたかと言われれば微妙なところである。

　貧しい家の生まれで、綺麗な顔をしていたせいもあり、あと少しで変態に売り飛ばされていた。

　その前に神路が、金に物を言わせて引き取ってくれたおかげで、危機を回避出来た。

　聖が最後まで光の地位にしがみついた原因は、元の生活に戻るかもしれないという恐怖があったかもしれない。そして、命の恩人に近い神路と離れたくなかったのだ。

　そう考えると、聖が報われなさすぎて同情してしまう。元から不幸になる運命が決まっていたからこそ、余計にだった。

「感謝、ですか。私が全ての根源でも、あなたを不幸にしかしなくても、こうやって守れなかったことが初めてではなくても、あなたは感謝し続けられるのですか？」

　こう考えているのを知られたら怒られそうだが、まるで親の愛情を確認している子供みたいに見えてきた。わざと悪いことを言って、それでも許してくれるのか、怖がりながらも期待して待っている。

　いじらしい態度が面倒とは感じず、むしろ可愛いとまで思ってしまった。

　どうしたら安心させられるか。それだけしか考えていなくて、ただ体が勝手に動いていた。

「はい」

　額に軽く唇で触れた。すぐに離れたが、驚いて固まっている神路の顔がツボに入り、馬鹿にしたわけではなく単純に笑ってしまった。