第24話 俺をめぐって
声を上げたのは、神路だった。
その後ろで、剣持が視線で強く訴えてきている。立場的に声をあげられなかったが、別の場所だったらきっと一番に動いていただろう。
「あ? なんだ、文句でも言うつもりか?」
忠告に気分を害した神威嶽が、低い声で威嚇した。
神路が相手でも、全く怯んでいない。それは相手も同じだった。
「あまりにも目に余る行為を、見過ごすわけにはいきません」
石ころに向けるぐらいの視線に、俺が反応してしまう。悪くなくても謝ってしまいそうになる。
決して臆病なわけではない。他が強すぎるのだ。
「目に余る行為っていうのは、一体どのことを言っているんだ? 別に俺のものにしても構わないだろう」
構う。どう考えても構う。
物扱いをされていることだって文句を言いたいが、俺自身の話を勝手に決めないでほしい。
「光は、神殿のものです」
神路までもが物扱いをしだした。
神殿所有に異論はなくても、素直に受け入れられなかった。
膝の上に乗せられているせいで、俺の中にあるプライド的な何かが、どんどん削られていくのを感じる。
こういうのは、俺ではなく主人公にしてほしい。絶対に違うけど取り合われているみたいな状況に、現実逃避をしかけていた。
二人の間に入れないでいる剣持が、歯がゆそうにしている。出来ることなら慰めてあげたい。
でも、腰をしっかりと掴んだままの手が、それを許さなかった。
これは立派なセクハラじゃないだろうか。
訴えたら、普通なら勝てる。相手が皇帝以外なら。
人を始末するのだって簡単なのに、これぐらいのことで失脚するわけが無い。
逆に誘惑したと言われて、俺が処罰されそうだ。
二人だけでバチバチと争っているが、何をそんなに取り合っているのか。
脳内がお花畑なら馬鹿な考えをしそうだけど、違うのは自分がよく分かっている。
そうなると自ずと導き出される答えは俺単体ではなく、俺が持っているもの。
つまりは技術だ。
アクセサリーを、予想よりも気に入ってくれたらしい。
誇らしいが、変に執着されても困る。利用価値があるとなれば、そのまま囲い込まれてしまうかもしれない。
生存確率が上がるとしても、ずっとここに滞在する気はなかった。
主人公の近くにいれば、いつ何が起こるのか分からない。そんなつもりはなくても、俺が危害を加えたと言われればどうしようもない。
触らぬ神に祟りなしだ。こういうのは距離を置くべきである。
「神殿のもの? そんなわけあるか。光は国所有の存在だ。つまり、俺の物だ」
あまりに俺様理論すぎるが、それが許されてしまうのが皇帝という存在だった。
このままだと、神殿から城に拠点を移される。まだ神殿の方が待遇はいいはずだ。絶対に移りたくない。
この時ばかりは、心の中で神路を応援した。その応援が届いたのか神路が口を開く。
「暴論ですね。それを認めるわけにはいきません。何を言っているのか、自覚していますか?」
絶対零度に、凍るのではないかと錯覚をしそうになる。よく神威嶽が我慢していると、尊敬しかける。でも考えてみれば、この状態にした張本人なのだから、尊敬も何もあったものでは無い。
「元から光っていうのは、そういう存在だろう」
どういうことだろう。言葉の意味が分からず、反射的に神威嶽の顔を見た。
「なんだ?」
どうして俺がそんな反応をするのか分からなかったようで、訝しげに首を傾げてくる。お互いに変な感じになって、妙な間ができた。
「あの……そういう存在とは、つまりどういうことでしょうか?」
「あ?」
質問を間違えたか。まるで俺がおかしな質問をしたみたいな様子に、撤回するべきか迷った。でも一度口に出してしまったのだから、取り消したところで遅い。
「おい、ちゃんと教育しているのか?」
「……ええ、しているはずですが」
言い争いを止めるぐらい、当然のことを聞いてしまったらしい。神路までもが驚いているので、聞かない方が絶対に良かった。
「本気で言っているのか?」
「……は、い」
冗談だったと言っても、それなら説明しろと返されそうだ。そのぐらいの意地悪は絶対にする。
恥を忍んで分からないと正直に言い、教えてもらう道しかない。
ぎこちなく頷けば、目を見開いた神威嶽がすぐに愉快そうに笑う。嫌な笑い方だ。馬鹿にしているようでもあるし、寒気を感じさせるものでもある。
自然と腰が引けたが、掴まれているのだから無駄な行動だった。
「はっ。知らないふりをしているのか。……まあ、どっちでもいい。光は、強い能力を持った奴のパートナーになる」
「パートナー」
その意味は分かる。結婚するということだ。
強い能力を持った相手というのが初耳だが、続く話を聞いて納得させられた。刺せられたと同時に、衝撃で言葉を失う。
「そうだ。強い能力を持った相手との間に子供が持てるのは、光だけだ。だからこそ、光はたくさんのパートナーを持てる。俺や、気に食わないが、そこにいる大神官様とかともな」
だから、この小説は逆ハーレム的なものだったのか。
言葉は出なかったが、脳はめまぐるしく回転して、すぐにその事実と結びつけた。
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