第21話 完成






「俺は、あの人を認めたくありません」


「……剣持の言いたいことも分かるけど、これに関しては難しいな。悪い」


「聖様が謝る必要はございません。完全に俺のわがままですから」


 申し訳なさそうな顔をする剣持に、俺は慰めようと頭に手を伸ばした。撫でるのが当たり前になっていて、その柔らかな感触で自分の気持ちを落ち着かせていた。


「……実際のところ、俺も面倒と言えば面倒なんだけどな」


 宣言通り、神々廻は俺の元に毎日来るようになった。何をするでもないが、ただ顔を見に来ているだけだと言っていた。それが俺にとっても、剣持にとってもストレスになっている。


 どうして神路は、神殿に留まるのを許可したのだろう。神々廻の立ち位置を考えれば、表にいるべきではない。仕事に支障が出るだろう。

 でも許可を出したということは、そちらの方が都合がいい理由があるからだ。そして毎日俺のところに来ているのだから、俺を監視するのが目的だとすぐに分かる。


「それなら、俺が警告しましょうか」


 思わずこぼれてしまったため息を聞いて、剣持がそんな提案をしてくる。態度に出すべきではなかった。たしなめるように頭を撫で続け、俺はヘラりと笑う。


「そんなことはしなくていい。剣持に被害が出るのは、俺の本意ではないから」


「……ですが」


「……ずっとここにいるわけではないはず。しばらくの辛抱だ。……どんなに嫌でも、滞在している間は客人だからな」


「……どうして、聖様が辛抱しなければならないのですか」


 それは痛い指摘だ。

 剣持はまだ俺が本物だと思っているから、仕方なく受け入れているのに憤りを抱く。でも、申し訳ないが俺は文句を言える立場では無いのだ。


「……俺は光として、半端な仕事しか出来ていないから」


 それ以上は、聞かないでほしい。言葉の中に意味を込めれば、聡い剣持はすぐに察してくれた。


「っ。でもそれには、何か理由があるのでしょう?」


 どこまでも優しい。すぐに俺を庇ってくれる。盲目的に信じてくれるところは心配だけど、味方としてはありがたい。


「俺の力が足りないだけだ。俺が駄目なだけ。だから、この状況を受け入れるしかない」


 力なく笑った俺に、剣持が苦しそうな表情をする。胸元を強く握り、その気持ちをなんとか押し込めようとしていた。


「……聖様は、こんな扱いを受けるべきではないのに。どうして、こんな場所に」


「剣持。それ以上は駄目だ」


 衝動のまま良くない言葉を口にしそうだったので、俺は先回りして止める。そうすれば納得のいかない顔をしていたが、言葉を続けはしなかった。


 俺の部屋には、まだ監視カメラが設置されている。もしかしたら、気づかない間に増えているかもしれない。

 剣持の言葉が不敬だと思われれば、神路が何をするか分からない。カメラがあることは言えないから、ただ止めるだけしか出来なかった。


「それよりも、もっと別のことを考えよう。ほら、もう少しで完成するところなんだけど、何か手直ししてほしい部分はあるか?」


 話を切り替えるために、俺は立ち上がって製作途中のアンクレットを見せる。要望を聞きながら作っているけど、最後に手直ししてほしいところは聞いておきたかった。


 本当は、サプライズみたいな感じで秘密にしようとも思ったが、初めて作るからお互いに満足するものにしたかった。

 意見を言うなんてと遠慮しようとしたから、素直に言わないと困ると伝えた。どう作ればいいのか指針が無いから、好みをはっきりと教えてほしいと。そうすれば、段々と意見を口にするようになった。


「そうですね……長さをもう少し短くしてもらえれば。あまりゆとりがあると、引っかかって切れてしまうので」


「分かった。デザインは?」


「それは、もう言うことがないぐらい素晴らしいです。俺が身につけていいのかと、思ってしまうぐらいに」


「そんなに褒めるな。照れる」


「お世辞ではなく本心です」


「……だからそれが。いい、分かった」


 こういう時の剣持は、頑固なので無駄な労力は使わずに諦める。呆れながらも、嬉しいことに変わりはない。

 自然と口元が綻ぶ。


「それじゃあ、調整するだけだから今日にでも完成させられるな。出来たら、すぐに渡すな」


「とても楽しみです。大事すぎてしまっておきたいですが、せっかく作ってもらったので身につけないと失礼というジレンマが襲ってきます」


「きちんと手入れすれば長持ちするし、作るのは今回だけじゃないから、ぜひつけてくれ。おそろいなんだから、つけてくれないと意味無い」


「おそろい。……そうですね。かしこまりました。厚かましい願いだとは承知していますが、作ってもらう機会が訪れたとしたら、またおそろいがいいです」


「剣持がそうしてほしいなら、次もペアで作る」


「ありがとうございます」


 嬉しそうにしている剣持と同じぐらい、実は俺もおそろいという事実に喜びを感じていた。誰かとおそろいなのは、それぐらい仲がいいと周囲に知らせているみたいなものだ。

 今度はどんなものを作ろうかと、そう頭の中で計画を立てていたが、俺はあることを思い出してしまう。


 いつ、神威嶽に完成したものを渡すか。それが問題だった。






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