第19話 怪しまれる





 後ろめたさがあったせいか、一瞬固まってしまった。

 それは、神々廻の言葉を認めているようなものだ。慌てて表情を取り繕ったが、向こうには通用しない。


「絶対におかしい。上手くやっているかもしれないけど、こっちからしたらバレバレ」


 予想とかではなく、確信を持っている言い方だった。それが、俺になった変化に気づいてのことなのかが重要である。

 焦る心を落ち着かせて、なんとか普通に話そうと意識する。


「ミカさんが何をおっしゃりたいのか、よく分かりません」


 とにかく認めるわけにはいかない。困った表情を作って、分からないふりをしたが無理だった。


「……ただの偽者が、思い上がるべきじゃない」


「っ」


 それは、俺だけに向けて言われた。剣持にも聞こえなかったはずだ。俺は驚いて声も出せずにいた。


 バレたと思った。俺が聖でないことが。聖ではあるが、前までとは違うことが。

 だから怖くなって、混乱して固まった。冷静に考えれば、神々廻がそういう意味で言ったわけじゃないと分かったはずなのに。


 図星を突かれて戸惑う俺に、神々廻は追い打ちをかけようとした。息の根を止める言葉を口にしかけたその時、強い力で俺は後ろに引っ張られる。


 そして固さはあったが、優しく受け止められる。何が起こったのか、すぐに理解する。


「……聖様に危害を加えるな」


 低く唸りながら、神々廻に対して威嚇している剣持の姿に、俺は少しずつ恐怖から抜け出す。落ち着け。取り乱してもいいことはない。

 大丈夫だと何度も言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。


「護衛が口を出すなんて、随分と教育が足りていないらしい」


 剣持の威嚇をものともせず、神々廻はむしろ煽り始める。でもその瞳は笑っていなくて、この状況に苛立っているのが伝わってきた。あと少しでも気に入らないことがあれば、爆発を起こしそうだ。


「聖様に害をなそうとしている相手に、払う敬意なんてない」


 神々廻の雰囲気に恐怖を抱いているはずなのに、それでも剣持は立ち向かってくれた。他でもない俺のために。

 ここまで頑張ってくれているのに対して、俺はあまりに弱かった。ふ抜けている場合では無い。


「俺の専属騎士が申し訳ありません。血の気が多いものですから。それに、俺に対しての忠誠心がとても大きいのです」


「そうですか。忠誠心があるのはいいことだ。でも、彼は全てを知っているのかが疑問だ」


 これは、遠回しに脅しをかけている。先ほど偽者だと言ってきたのは、俺が光じゃないことに対してだ。そちらがバレたのも良くないが、俺自身の正体よりはマシだろう。


 あながち偵察しに来たというのは、間違いではなかったのだ。

 俺が代理の光だとどこかのタイミングで知り、そして急にアクセサリー作りを始めたから、なにか企んでいると疑って会いに来た。


 直接偽者だと言ったのも、俺の反応を見るためだろう。性格が悪い。

 ここで俺が脅威だと判断されれば、今夜にでも存在を消される。歯向かったから、ついでに剣持もだ。神々廻なら、それを簡単に出来る。


 これは神路か神威嶽に頼まれたことなのか、それとも自己判断で調べに来たのか。後者であれば、まだ助かる余地はある。


 俺はいいとしても、剣持を殺させはしない。

 冷静になれ。落ち着いて対処するんだ。

 感情的に話したら、それこそ自分の首を絞めることになる。


「……それでは、全てを知っているあなたは俺に何を望んでいるのですか?」


 わざわざ俺に言ってきたのだから、神々廻は利用価値があるかどうかを探っている。それがあると分かれば、すぐに消そうとはしないはず。


 簡単に利用される気は無いが、助かるためには仕方ない。頼み事の一つぐらい聞こう。


「やっぱり面白い。前までは、こんなに興味をそそられるタイプじゃなかったのに」


「気持ちを入れ替えただけです」


「へえ。それはそれは、どんなきっかけがあったか知りたいものだ」


「親交を深めれば、いずれ分かるかもしれませんね」


「……命乞いかな?」


 俺を殺せば何も分からないままだと、裏に意味を含ませれば、すぐに察した。


「どうでしょう。俺が疑われている理由も聞いていませんでしたね」


 そう言った途端、俺を守るように抱きしめていた剣持の腕に力がこもった。疑われている、それに対して怒ってくれたのだろう。

 本当に、俺にはもったいないぐらいの存在だ。


「剣持、大丈夫だから」


 腕を軽く叩き、落ち着くように言っておく。そうしないと、たぶんすぐにでも神々廻を切り捨てようとするだろう。


「……命令してくだされば、いつでも動けますので」


 怒りを収めてはくれたが、こそりと耳元で言ってくる。いつでも切り捨てられると。それに対し、俺は小さく頷いて返しておいた。


 さすがに、そうはならないように気をつけるつもりだ。


「ははっ。騎士も命知らずだけど、その主人は、さらに命が惜しくないらしい」


「命は惜しいですよ。好きで殺されたい人なんて、いるわけないでしょう」


「確かに。それなら、ただ馬鹿なのかな。馬鹿な奴は嫌いだ」


 楽しそうに笑っていたが、殺気が全身にまとわりついた。





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