第17話 怪しさ満点
宝石は採れる量に多少の差はあれど、貴重なものに変わりない。
赤と紫だけ、今年はたくさん採れたのだろうか。そんな話を聞いたことはなかったけど。
まるで俺が欲しいと分かっていて、あらかじめ用意されていたみたいな。まさかそんなわけない。
そう思いたいが男の怪しい雰囲気のせいか、思考を読み取られたとしか考えられなかった。
考えが読まれているのではないかと、そんな嫌な想像をしてしまったが、気のせいだと自分に言い聞かせることにした。
陛下のために使うという話は聞いているだろうし、俺の瞳の色に合わせたものを多く用意しておいた。そうに違いない。
こう切り替えていないと、精神的におかしくなりそうだ。頭の中を占めそうになる考えを振り払い、目の前にある品物に意識を集中させる。
神威嶽の色に近いもの、俺の瞳に近いもの。どれがいいだろうか。色の濃さが微妙に違っていて、すぐに決めるのは難しい。
比較対象が記憶しかないから、近いものだと迷う時間がかなり長くなる。
とにかく自分の目を信じるしかない。俺は最終的に候補を二つまで絞って、どちらがいいか見比べていた。
神威嶽のは、なんとか決まった。真っ赤ではなく、血を思い出させるような暗みのある赤。光にかざすと、美しく輝く。
今迷っているのは、紫色の方だ。俺の瞳は中心とふちの部分は濃い紫だが、それ以外のところは薄い紫である。迷っている二つは、それぞれの色に近いものだった。どちらが、より俺らしいか。
腕を組んで考えていると、後ろから腕が伸びてきた。
「……僭越ながら、俺の意見を申してもよろしければ、こちらがいいと思います」
そう言って、剣持は薄い紫色の方を選んだ。俺はそちらの宝石を手に取り、後ろを向いた。
「こっちの方が俺らしいか?」
「はい。光の中で輝く聖様の瞳に、とてもよく似ています」
「それならこっちにしよう」
「……よろしいのですか?」
自分で言ったのに、いざ俺が選ぶと不安な様子で確認してきた。これから、もっと自信を持たせなくては。頭に入れつつ、笑う。
「こっちがいいと言うのなら、これが一番だ。それに剣持のために作るんだから、希望を聞くのは当たり前だろう」
自信を持てるように、俺が変えていく。反対することなく、全面的に希望を受け入れると伝えれば、剣持が嬉しそうにする。
「……ありがとう、ございます」
「お礼を言われることはしていない。次は、細工部分の金属の種類を選ぶからな。……揃いがいいなら、ブローチよりも……」
「……お二人は、とても仲がいいようだ」
せっかく話をしていたのに、何故か急に会話に割り込んできた。しかもさらに畳み掛けてくる。
「見たところ、主従関係なのにかなり気を許している」
こういう時は饒舌なのか。俺は呆れながら、男の目をまっすぐ見た。
「はい。信頼していますので。それがなにか問題でもありますか?」
赤の他人に、文句を言われる筋合いはない。いらだちを込めてはっきりと言えば、男はふっと口角を上げる。
「……いえ。ただ随分と、聞いていた人物像とはかけ離れていて。もっと過激な性格だと……なにか思うところでもあって、そんな感じに?」
これは、馬鹿にされていると受け取っていいか。それとも、俺の正体を暴こうとでもしているのか。どちらにしても、大人しくやられるつもりは無い。
「お聞きになった話を信じるか、今見ているものを信じるか、俺はどちらでも構いませんよ。間違った方を選べば、ただ愚かなだけですから」
相手から始めたのだから、これぐらいのジャブを打ってもいいはずだ。口元に手を当てて、あえて高圧的に言う。
怒るかと思ったが、相手はむしろ楽しそうになった。
「それなら、愚かだと思われない方を選ぶしかない。……思っていたより、ずっと興味深い人だ」
「そっくりそのままお返しします」
主に仮面に向けて言えば、俺が言いたいことが伝わったようで、顔を隠している仮面に触れる。
「……これは念の為かな」
そう呟くと、俺が選んだ以外の宝石を片付け、今度は細工に使えそうな金属を並べ出した。
宝石と同様に、こちらも最高級品だった。考えないようにしているが、値段もそれ相応なはずだ。
まだ利益を出していない今は、痛い出費である。でも、これからの投資と考えればいい。
綺麗に磨かれている金属を、またルーペを使って見ていく。
「……どれも良い品ですね。ここまで揃えられるなら、かなりのやり手だとお見受けします」
「そんな、まだまだ若輩者だ。こうして光を目の前にしていて、自分の幸運に感謝している」
「謙遜しないでください。神路様が紹介してくれたのですから、あなたの腕を認めているのでしょう。現に、あなたは俺が望む以上の品を用意してくれています」
謙遜されると、逆に嫌味に聞こえてくる。能力が高いことは、すでに知っているからだ。
それは、俺が相手の正体を知っているからだ。仮面で隠していたとしても、すぐに分かる。
彼は、小説のメインヒーロー最後の一人だった。
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