第15話 俺にあるもの
神路は怖かった。どうして神威嶽にアクセサリーを作ることになったのか、詳しく話をするはめになった。
話している最中、どんどん神路の機嫌は下がっていった。それこそ、途中で何度も止めようとしたぐらいだ。
皇帝の依頼だから、一応名誉なことのはずなのに、神路は全く喜んでいない。
「陛下に何をしたんですか?」
むしろ話を終えると、まっさきにそう言ってきた。俺が何かしたと決めつける言い方に、濡れ衣なのでムッとする。
「俺は何もしておりません。書庫で本を探していたら、陛下がいきなり現れて話をしただけです」
要約すると、こんな感じだ。もちろん、言葉の裏には神威嶽一人が、護衛も引き連れずに、一方的に絡んできたという意味を込めている。神路に通じたら困るので、さりげなくだ。
「それで、何故アクセサリー作りを依頼されるという状況になるのですか」
「剣持が専属騎士になりましたので、その記念として何かプレゼントをするという話をしていたら、陛下が自分にも作ってくれとおっしゃったのです。ああ、でもそういえば……」
そこで、ふと疑問が湧く。
「どうして陛下は、俺にアクセサリーのデザインから何まで任せたのでしょう。俺の腕を信用している類のことをおっしゃっていましたが、まるで実物を見たかのように……」
話しながら答えに気づいた。
それは、聞いていた神路も同じだった。だからこそ、後ろめたそうな表情を浮かべたのだろう。
「あの……俺、まだ神路様以外には作っていません。試作品すら無い状態ですが、陛下は何を見たのでしょうか」
「……申し訳ありません。私が陛下に教えてしまったせいです」
遠回しに言えば、素直に自分の非を認めた。まあ神路以外には作っていないのだから、他に責任を転嫁する相手もいない。
「どうして陛下に?」
口止めをしていないから、言っても構わなかった。でも、神路がわざわざ話す理由も見当たらない。
どういう経緯でそうなったのかと、俺は首を傾げながら聞く。
「……話の流れで、そういうことになりました。勝手に話してしまい、申し訳ありません」
「いえ、別に構いません。秘密にしておいてほしいとは言いませんでしたから。ただ気になっただけです。理由が分かり、すっきりしました」
むしろ神路だけでなく、神威嶽まで俺が作ったものを身につけているとなれば、これは売れに売れるのではないか。そうなれば、もっと資金が貯めやすくなる。
本物が現れたら、剣持がどうするのだろう。専属騎士になるのは、光としての契約なのか。それとも、俺との契約なのか。全く意味が違ってくる。
もしも後者だった場合、上手く生き残れたら剣持は俺とともに神殿から去るはめになる。ただの庶民には、守るだけの価値があるとは思えない。その時は、騙したと責められるだろう。でも契約は死ぬまで終わらない。
申し訳なく思いながら、剣持を見た。視線を感じたのか、すぐにこちらに顔を向ける。
「いかがなさいましたか?」
軽く首を傾げ、嬉しそうに聞いてきた。こんなふうに羨望の眼差しを向けるのも、俺が光だと信じきっているからだ。
出来れば、光との契約であってほしい。そうすれば、剣持は神殿で騎士として仕事し続けられる。俺よりも、本物の方が守りがいがあるだろう。きっとすぐ、俺のことを忘れて夢中になるはずだ。
胸がちくりと痛んだ。それを見てみぬふりをして、手を伸ばして頭を撫でる。
万が一、俺とともに出ていかなければならなくなったら、何不自由なく生活ができるようにしよう。それには、二人分の資金が必要になるわけだ。
「剣持のことは、俺がきちんと責任を持つ。だから安心しろ」
「……ありがたき幸せです」
もう撫でられることに慣れたらしく、自然に受け入れていた。俺も犬を可愛がる気分で、優しく触れる。ブンブンと勢いよく振られているしっぽが、幻覚で見えるぐらいだ。
どっちに転んだとしても、剣持が不幸な目に遭わないようにしたい。俺のために、すでに犠牲にさせてしまったものがあるのだから。
「……随分と、仲がよろしいですね」
決意を固めていたら、冷たい声が耳に入ってきた。神路が声と同じぐらい、冷たい視線を向けてきている。
こんなのは慣れているので、俺は視線を受け流しながら微笑む。
「専属騎士になってもらったのですから、信頼関係を築くのは当たり前でしょう。自分の身を預けることになるのに、仲が良くなかったら意味が分かりません」
文句を言われる筋合いはないと、笑いながら抑え込む。そうすれば自分の分が悪いと判断したのか、さらに何か言ってくることはなかった。
俺はついでとして、叶えてもらいたい頼み事を口にする。
「陛下に作るのと、大事な専属騎士に作るために、自分の目で見て判断したいです。だから先ほども言ったように、商人と会わせてください」
神路は頭の中で色々と天秤にかけ、そして最終的に頷いた。断られる覚悟もしていたから、俺は許可が出て驚きつつも喜んだ。
これで、いいものが作れそうだ。俺は喜びのまま、剣持の頭をしばらく撫でていた。
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