第14話 怒られる
「……それはなんですか」
「えっと」
「元の場所に返すべきです」
「いや、さすがに……」
気分はまるで、捨て犬を拾ってきた子供だ。俺は剣持を背中に隠しながら、神路と対峙していた。剣持の方が体が大きいせいで、全く隠せていない。はみ出ている。
それを冷めた目で見る神路は、もう一度はっきりと言った。
「元の場所に返しなさい」
返せと言われても、元々俺の護衛だ。それに連れてきたのは、神路の方である。どうして俺が責められているのか、よく考えると意味が分からなかった。
「返しなさいと言われましても……そもそも人ですし。専属騎士になったので」
「どうして、そのような状況になったのですか」
「えーっと……」
ちゃんと意味を分かっていない状態で名前を聞いて、それが専属騎士契約だと後から知りました。
事実はこうだが、絶対に言えるわけが無い。今だって、冷たい視線を向けられているのだ。本当のことを話したら、どんな反応をされるか分かったものじゃない。
「……専属騎士が必要かと思いまして」
「何故ですか」
「いた方が、何かと安全だと考えたからです」
「つまり、命の危機があると言うのですか?」
その通り。小説のまま話が進めば、俺は確実に死ぬ。一人でも味方いると、こんなに心強いものは他にない。
でも、これも正直に話していい内容ではない。言ったところで、今度は頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。それこそ、逮捕とまではいかなくても軟禁される。
「……その可能性も、ゼロではないでしょう」
これもまた事実だった。俺の存在を、よく思わない人は多くいる。
それこそ、俺に能力がないと噂しているような人もいて、きっと知らないだけで命を狙っている人だっているはずだ。
この神殿のセキュリティが高いから、侵入者が現れたとか賊が現れたとかの話は聞かないけど、万が一という可能性はある。
それこそ突然襲われたら、俺一人では対処できない。
目標は死なないことなのだ。小説の内容に多少の変化が現れている中で、俺の死ぬタイミングも変わることだってありえる。
そんな時、守ってくれる人がいれば、少しは生存確率が上がるだろう。
神路も、絶対に大丈夫とは言えないからこそ、雰囲気は冷たいままでも反論出来なかった。
それに、専属騎士の誓いは神殿でも破棄させられないようだ。何を言ったところで、剣持が傍にいるのを止めさせられない。分かっているはずなのに、俺が勝手に行動したことを責めたいからネチネチと言っているだけだ。
剣持が何者かによって殺されでもしたら、破棄、というよりも誓い自体が終了するが、さすがにそこまではしないだろう。たぶん。そう信じたい。
「剣持は腕も立ちますし、俺に対する忠誠心もあります。ローテーションでかわるより、同じ人に傍にいてもらった方が楽です。……四六時中、俺を守らなければいけない剣持が大変かもしれませんが」
「俺は、聖様を守るためなら何でもします」
「ありがたいことに、彼もこう言ってくださっています。部屋は、今まで護衛が使っていた場所をそのまま剣持の部屋にすればいいでしょう。それでも、駄目だと言いますか?」
一応、神路が反対するかもしれないと、色々と言い訳を考えておいて良かった。まさか使うことになるとは。準備しておくのは大事なことだと、しみじみ感じた。
俺の言い分には穴はあるけど、反対する大きな理由もない。むしろ専属騎士がいるのは、向こうにとってもプラスになる。
本物が現れる間は、俺が代わりとして生きている必要がある。いくら偽者でも、誰かに殺されたりしたら国レベルの問題になるかもしれない。余計な争いごとを生まないためにも、俺を守りたいという意志が強くある剣持がいるべきだ。
おそらく神路は頭の中でそういったことを考え、最終的に結論を出した。
「すでに誓いは済まされていますから、私がどうこう言える段階ではありませんね。ただ、これからは相談なく勝手な行動をするのは慎んでください」
認めつつ、しっかりと釘をさしてくる。それでも罰は無さそうなので、良かったと内心で胸をなでおろす。
「部屋は用意させます。専属騎士になったというのは、すぐに発表します。後は、形だけですが契約書も作っておきましょう。本来は必要のないものですが、あった方が手続きなどもスムーズに出来ますので」
認めると言ってからは、テキパキと今後の流れについて説明してくれる。
どうやら、誓いを交わして終わりというわけにはいかないらしい。周囲がうるさいのだろう。それを黙らせるために動いてくれるようだ。
俺はどうすればいいかさっぱりだから、やってくれるのは本当にありがたい。任せておけば、きっと過不足なく進めてくれるはずだ。
本気で捨ててこいと言われなくて良かった。もし言われたら、俺はどうしただろう。考えたが、答えは出せなかった。
これからの手続きについて説明している神路に、俺はもう一つ言っておくべきことを思い出した。
「……あの、陛下のアクセサリーを作ることになったので、出来れば材料を自分で選びたいのですが」
「……は?」
その声は、地の底から響いたのではないかというぐらい低かった。
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